転機は0-92の敗戦
愛媛県の強豪、松山聖陵高校ラグビー部。
今年は『1ミリでもこだわる』しつこさを信条とする。
トライを取れるシーンで取り切れない、その原因は「こだわっていないこと。しつこさ」にあると渡辺悠太監督は話す。
「強いチームとは、そういう基本的なところを大事に持っています。それが、他の部分で華やかに見えるだけ。しつこさを追求する練習は面白くないですが、それは昨年、花園で桐蔭学園さんと試合をさせて頂いて非常に感じたことでした」
しつこさにこだわる理由があった。
2023年12月30日。
松山聖陵は、全国高校ラグビー2回戦で桐蔭学園と対戦した。
のちに花園王者となるチームを相手に、0-92。
完敗だった。
「僕も長年ラグビーしています。僕自身は東海大仰星(現・東海大大阪仰星)で山中亮平と同期で、日本一を経験しました。東海大でもリーチマイケルと一緒にプレーして。だけど、あんなラグビーをさせてもらったことはない。『東海大相模ってこんなチームとずっと戦っているんだ』と思いました。と同時に『桐蔭学園がここまできちゃったか』と。すごいチームですね。試合後、桐蔭学園に負けた後、すぐ藤原先生(秀之・桐蔭学園監督)のもとに行って、3・40分ぐらいお話をさせてもらいました。悔しくて(笑)今のうちのチームの現状を教えてくださいました。有難いです」
年があけて、2024年1月7日。
新チームとなった松山聖陵高校ラグビー部の面々は、再び花園ラグビー場にいた。
「2日前ぐらいに、見に行けるな」と思った渡辺監督が部員に問うと「見に行きたい」と言う。
じゃあ、とバスに乗り愛媛から再び、舞い戻った。
自分たちには92-0で勝ったチームが、東福岡を相手に8-5。痺れる決勝戦を見た。
「行って良かったです。まずは僕が変わらないと、ベクトルを自分に向けないと、と痛感しました。彼らは寮生活で、プライベートでも逃げる場所はありません。だからこそ僕も一緒に歩んでいる感覚があります。僕が選手たちに変わらされているな、と感じます」
やったる
今年の松山聖陵が設定したスローガンは『Form a Team』。
チームを結成する、との意味を持つ。
「1人1人が主体的になってチームを作る、全員がまとまって戦う」との願いを込めた。
新チーム最初の全国の舞台は、春の全国高校選抜ラグビー大会。
1回戦、今度はもう一つの神奈川県のチーム・東海大相模に0-57で敗れた。
敗れた翌朝、同じく選抜大会1回戦で敗れた東福岡・藤田雄一郎監督の試合後コメントを、とある記事で読んだという渡辺監督。
素直にカッコイイ。だから背中を追いかけたい。
「素直に(藤田監督のように)ああなりたいな、って思いました。子どもたちに影響を与えられるような大人になりたいな、って。子どもたちは毎日成長しています。特に桐蔭学園さんに敗れた後は、ラグビーを辞めたくなってもおかしくないぐらい心が折れていても仕方ないと思うんですけど。『やったる』って言うやつらがいるんで。それが、嬉しいです」
山あり谷あり。
谷が続こうが、山の頂上を目指す監督のもと、チームはまとまり更なる進化を続ける。