栗橋北彩高校 0 – 60 西武文理
強くて大きい選手たちがボールを持てば、前に出る。
ディフェンスで耐えれば、ブレイクダウンでターンオーバー。
湧き出るようなサポートプレイヤーたちがボールを繋げば、奪った10トライ。
西武文理が栗橋北彩を零封に抑え、2回戦に進出した。
たった1人の3年生が繋いだラグビー部
単独チームとして3年ぶりの花園予選出場、そして4年ぶりの勝利を収めた西武文理高校。
キャプテンを務めるは、No.8の髙柳圭佑(たかやなぎ けいすけ)選手。
60分間体を張り、この日はハットトリック。
試合終了間際に髙柳キャプテンがラストトライを決めると、多くの下級生が駆け寄り「ありがとう!」と満面の笑みで声を掛けた。
髙柳キャプテンがラグビーに興味を持ったのは、たまたま目にしたというラグビーワールドカップ2015 日本対南アフリカ戦がきっかけだった。
ジャイアントキリングを起こした日本代表に「刺激を受けた」という。
「僕はもともと野球をやっていたのですが、野球は最終的に、ピッチャー対バッターの個人勝負になってしまいます。でもラグビーは、1人でも欠けたらプレーできない。そのチームプレーに魅力を感じました」
入学当初、ラグビー部に入部した同級生は5名。
だが次々と退部し、2年生になる頃にはついに、髙柳キャプテンたった1人となってしまう。
1・2年生の頃は西部地区の合同チームに属した。
しかし今年、多くの1年生が入部してくれたことで、部員数は3学年あわせて20名を超える。チームを率いる飯塚淳平監督は「毎朝校門に立って挨拶しました」と秘訣を語った。
3年目で初めて、単独チームとして迎えた花園予選。
その初陣は「夢中でプレーしていました(髙柳キャプテン)」と笑顔が広がった。
「自分ひとりの力では、絶対にできなかったことを、1・2年生がやってくれた。下級生には感謝しています」
屈託のない表情を見せた。
「ほとんどの選手たちが高校からラグビーを始めました。この夏、1年生が必死に合宿についてきてくれて。今日これだけの点差で勝てるとは、全く想像していませんでした。本当に1年生の頑張りのおかげです」
トライにタックルにと奮闘した1年生ウイング。プレイスキッカーも全て1年生が務めた
2回戦には、川口高校が待ち受ける。
「相手は強豪ですが、自分たちができるプレー、そして自分たちの武器となるプレーを磨いて、相手にリスペクトをもって正々堂々と戦いたいと思います」
ラグビーは、人と人がぶつかる競技。勝ち負けは絶対につく。
だからこそ「その中で相手へ敬意を払うこと、そして限られた時間の中で自分の100%のプレーをすること」を意識して、2回戦に挑みたいとキャプテンは誓った。
がんばって、心の底から声を出した
ノータイムを迎える直前のこと。
仲間の方を振り向き、両手を握りしめながら全身を震わせた選手がいた。
栗橋北彩高校6番・江原麗人(えはら れいと)選手。
「(気持ちを)下げんな、上げろ!一本取るぞ!」
バイスキャプテンであり、ゲームキャプテンとして。この日一番となる、大きな声を張り上げた。
「既に何トライも取られていた状況で、後半は疲れからみんなの声も出なくなっていました。だからゲームキャプテンとして、チームのみんなを鼓舞することができれば良いなと思って」
本来は、大きな声を出すことが苦手だという江原選手。だが「頑張って、心の底から声を出して、チームを引っ張りました」
渾身の一叫びだった。
江原選手がラグビーを始めたのは、小学4年生の時。同校OBの兄に憧れ、栗橋北彩へと進んだ。
下級生の頃はリーダーシップをとるタイプではなかったが、次第に「たとえ周りに反応されなくてもいいから声を出そう」との気持ちが芽生える。
3年生ではバイスキャプテン。キャプテン不在の時期も長くあり、チームの牽引役として歩んだ1年間だった。
正直に言おう。
この結果に悔いがないかと言われたら、ノーだ。
だが最後、全力でタックルに入れたこと。ボールも奪えたこと。負けた結果以外に、悔いはない。
「これから先は、地元のクラブチームに時々顔を出して、下の子たちに教えてあげようかなと思います」
優しき勇敢なラガーマンの魂は、下の世代へと受け継がれていく。
◆
江原選手から後輩たちに、伝えたい言葉がある。
「今自分ができる精一杯のことをすること。自分が得意なことをを伸ばして、不得意なことはどうしたらできるようになるか、研究してほしい。花園予選では、悔いのない結果にして欲しいです」
試合が終わるとグラウンドの片隅で、チームキャプテンと2名の女子マネージャーとの4人で肩を揃え、堪えきれぬ嗚咽を漏らした。