Pick Upストーリー
大学最後の兄弟対決「強くなったね」
後半25分。
16-22と立教大学が6点差に迫った場面でボールを託されたのは、筑波大学23番・大畑亮太選手。
10番・楢本幹志朗選手からのキックパスを左外でキャッチすると、立教大学のフルバック・大畑咲太選手を交わしてインゴールに飛び込んだ。
抜かれた立教大学FB大畑咲太選手は、しばらくグラウンドに膝をついたまま、動かない。
仲間の抱擁を受け止め終えると、筑波大学WTB大畑亮太選手は咲太選手のもとに歩を進め、頭を抱いた。
「お兄ちゃんは強かった」
試合後、立教大学・大畑咲太選手は、かのシーンを振り返る。
トライを決めた筑波大学・大畑亮太が兄で、交わされた立教大学・大畑咲太は弟。
年齢は2学年離れている。
兄・亮太を追いかけ、ラグビーを始めた弟・咲太選手。
「お兄ちゃんを目標に今までやってきた」からこそ、勝負のワンプレーで抜かれたことが悔しかった。
「試合が終わった時のように悔しくて泣きそうになりました。でもまだ試合は終わってなかったので『ここで泣くのは違うな』と頑張って堪えたんですけど。はっきり言って本当に、お兄ちゃんを目標に今までやってきた部分があったので。あそこでもう一度、差を見せつけられたことが悔しかったです」
ずっと目標だった兄。
今季、春シーズンから好調を維持している弟。
手が届いたか、と思ったが、しかし兄はやっぱり強かった。
ノーサイドの笛が鳴ると、2人で足を揃え整列場所へと向かった。
兄・亮太は、弟・咲太に「強くなったね」と声を掛ける。
春季大会では75-12で筑波大学が勝っていただけに、チームとしての、そして咲太個人としての成長を兄は実感したという。
兄・亮太選手は言った。
「立教の中で一番体を張って、プレーの起点になることも多かった。弟の成長を兄としてものすごく感じました。敵ながら『頼もしいな』と思いながらプレーしていて。僕も、うかうかしていられません。気を引き締め直してもらった試合になりました」
元日の前十字靭帯断裂。乗り越えた先に見る景色
軽妙なステップワークとその快足で、見る者を魅了するウイング・大畑亮太選手。
GPS測定で脅威の時速37.5kmを記録したこともあるトライゲッターは、昨年、前十字靭帯を断裂した。
大学2年時の大学選手権・準決勝前日、1月1日のことだった。
試合の前日練習中に負った大けがは、選手生命をも脅かす。
「心身ともに大ダメージで、ラグビーを辞めることも考えました」
大畑選手は、静かに言った。
自らが一番の武器とする『足』を負傷したことが、何よりも心に大きな影響を与えた。
かつてのように、思うようなプレーが再びできるようになるのか。本当にこのまま自分はやっていけるのか。
心配が募った。
「ラグビーを続けていけるのか、昨年1年間悩みました。でも嶋崎達也監督をはじめ、チームドクターや周りの人たちが気にかけてくださって。自分を支えてくださる方々がいる以上、辞めると言ってしまうのは無責任だなと考えるようになりました」
思いとどまる理由に溢れていることに気が付いた。
正直に言えば、まだ怪我する前のスピードには戻りきっていない。
それでもGPSの数値は、時速36㎞を超えるまでに回復した。今夏、日本代表のフルバックを務めた早稲田大学・矢崎由高選手のGPS数値は時速34.5㎞。ゆうに日本代表を超える速さを有している。
いまの大畑亮太で、大学ラストイヤーを悔いなく終えるために。
「支えてくれた人たちへの感謝の気持ちを、結果で示すこと。日本一を獲って『ありがとうございます』と感謝を伝えることが、今できる最大のことです。自分自身に焦点を当てながら、チームとして日本一を目指せるように引っ張っていきます」
挫折を乗り越えた先に訪れる未来を、自らの手で明るく輝くものにすると誓う。
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