埼玉ラグビー界に激震。深谷、30年ぶりにベスト8を逃す。川越は悲願の熊谷Aグラウンドへ「深谷高校の分まで頑張りたい」|第104回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選 3回戦

川越

真っ先に出てきた言葉は「ありがとう」だった。

声の主は、No.8高野隼多キャプテン。

幾度も体を張り、声を出し、チームを束ねた強力なリーダーシップが、大金星へと導いた。

「組み合わせが決まった夏休みから、この深谷戦に向けて準備をしてきました。強大な相手に対して全員で準備できたこと、その準備が実を結びました」と凛々しい表情を見せる。

そして、応援に駆け付けた多くの川越高校関係者に向けて「ありがとうございます。全員に感謝したい、という思いです」と頭を下げた。

前半、ビハインドとなった時に組んだ円陣でのこと。

選手たちから、声が飛んだ。

「金子に勝利を届けるぞ!」

金子とは、初夏の国スポ予選で腕を骨折した、チームの主力選手の名。

「僕たちは、試合に出られずともずっとサポートし続けてくれた金子に支えてもらって、ここまで来ることができました。今日勝てば、金子は次戦出場できる予定です。だから『金子を次の試合に出してやろう』という気持ちでみんな頑張ることができました(高野キャプテン)」

本来であれば、金子選手が背にするポジションは12番。

この日12番をつけた熊谷陸選手は「自分が金子の想いを引き継いで、金子の分まで、と。金子をAグラウンドに立たせるんだ、という気持ちでした」と明かした。

怪我をする前は、グラウンド内でいつも金子選手が支えてくれていたこと。

怪我をした夏以降は、チームのサポートに徹してくれたこと。

「(試合に出られなくて)一番本人が悔しいと思います。だから自分が金子の分までプレーするんだ、という気持ちでした」

グラウンドに立てない仲間とともに、戦った60分間だった。

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川越高校は、県内屈指の進学校。

歴史ある県立男子高校らしく、長ランをまとった應援團も駆け付け、声で選手たちを後押しした。

グラウンドに立つ選手15人も呼応するように、ハンドリングエラー少なく、意志の統一されたラグビーを展開する。

今年はパスで繋ぐラグビーが真骨頂。

高校入学後にラグビーを始める選手がほとんどなため、これまではモールを組む場面も多かったが、今年は3年生部員が21人もいる結束力をパスで表現しようとチャレンジした。

「毎日パス練習ばっかりしてきたよな」と笑ったのは、柳澤裕司監督。

ボールを正しく受け取り、正しくボールを次の相手に託す。その基礎練習を繰り返した。

だから。

「今日は川越高校のラグビーをしよう」と選手たちを送り出せば、ベストシナリオを達成する。

仕込んだプレーが全部出せたこと。

パスも繋がったこと。

予定通りのトライが取れたこと。

事前シミュレーションでは5トライ。実際は、4トライ。

あらかた事前にイメージしたとおりのスコアマネジメントで、歴史的勝利を手繰り寄せた。

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ピュアに、真っ直ぐに、誠実に

試合前、柳澤監督は川越高校のホームページにある一文を記していた。

『ラグビーをやっている選手で、「深谷高校」を知らない人はいません。花園常連校。OB・現役に日本代表選手多数。(原文ママ)』

全国大会出場25回を誇る深谷。これまで一度も、川越は深谷に勝てたことがないと柳澤監督は言う。30年の監督人生、柳澤監督も深谷からの勝利は初めてだった。

誰もが歴史を塗り替えた60分間を戦い終えると、柳澤監督とリーダー陣は自ら深谷ベンチへと足を運び、真っ直ぐに手を差し伸べた。

埼玉県で30年に渡ってベスト8に入り続けてきた深谷高校。

ラグビー人として、最大の敬意がある。

柳澤監督は、山田久郎・深谷高校監督に向かって「ごめん」と口にした。

「(深谷高校が)手負いの状態だったから、納得いかないと思うけど。ごめん」

ラグビーに興じる者としての誇りをもって、ラグビーの勝者たる姿を監督自ら、真っ直ぐに貫いた。

またこの日は、柳澤監督が作成した独自のメンバー表を川越高校サポーターたちに配布。

表面には、メンバー入りした25名全員の名前とともに「味方のトライの陰には、この男の努力が必要不可欠」「ミスしてもめげず、何度も頑張り続ける」など一言特徴をそれぞれに添えた。

そして裏面の最下部には、ラグビーを観戦するうえで大切な注意書きが。

『ラグビーの応援は「リスペクト」の上に成り立っています。両チーム・レフリーを応援してください。』

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ラグビーを愛し、ラグビーを愛する高校生を増やし続ける監督。

味方のハンドリングエラーには、声を揃えて「ドンマイ!」と掛け合う高校生たち。

ピュアに、真っ直ぐに、そして誠実にラグビーと向き合う川越高校ラグビー部。

2024年、9月。

部史に新たな歴史を刻んだ。

柳澤監督は言う。

「深谷さんの主力メンバーが出ていたら、たぶん僕たちは勝てなかったと思います。僕たちが強いとは、全く思っていません。今日深谷高校さんに勝てたからといって、思い上がるような(川越高校の)生徒たちでもありません。深谷高校の分まで、これから頑張りたいと思います」

笑顔と涙と覚悟のベスト8。

「自分たちは集中力が武器。準々決勝を戦う川越東さんは強力な相手ですが、1ヵ月集中して一つの目標に向かって頑張ります(高野キャプテン)」

誇りを胸に、いざ、熊谷ラグビー場Aグラウンドへ。

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