『心の主導権』で掴んだ日本一
『心の主導権』
今年、御所実業高校として新たに設定したフォーカスポイントだ。
中谷圭部長は説明した。
たとえば。
ミスをミスとしないこと。
攻め込まれた時に、負の連鎖を断ち切ること。
そのためにも基本に忠実に、自分たちをリセットできる状態にすること。
そこから得意のセットプレーやディフェンスでプレッシャーをかけていくこと。
これらを総じて『心の主導権』と表現する。
「これまで何度も天理高校さんに、先に主導権を掴まれていたことがありました。だから今年は『心の主導権』を一番のキーポイントとしています」
決勝戦前には、小さなホワイトボードに『心の主導権』と記し、最後の60分間に挑んだ。
「一番しんどかった2回戦・神奈川県戦を乗り越えて、決勝戦は結構戦えたのではと思います。神奈川県戦のあとに1日空いたことも、僕たちには好影響でした」
大会を通じてのチームの成長に、目を細めた。
だが、この日本一で喜ぶわけにはいかない。
1ヵ月後に訪れる大一番。
11月17日、第104回全国高等学校ラグビーフットボール大会 奈良県大会決勝戦の舞台で、今季の集大成となるゲームを行わなければ、花園での日本一は訪れない。
「愛媛県、神奈川県、佐賀県、東京都といろんな課題をもらいました。これをもう一度、自分たちで修正して天理戦に向かいたいと思います」と中谷部長が話せば、大久保幸汰キャプテンも「優勝は嬉しい。でもここで満足していたら天理に負けてしまう。もう一度気を引き締めて、また一からやりたいと思います」と誓った。
「今日もペナルティが多かった。そこからトライもされてしまいました。準決勝の修正ができなかった。でも天理戦まで、あと1ヵ月あります。もう一度修正して、天理戦で勝ち切って、花園に繋げていきます」(大久保キャプテン)
この日本一は通過点
自身初となる日本一。
満面の笑みで「めっちゃ嬉しいです」と答えたのは、3番・芳賀空選手だ。
流れを変えたトライだった。
後半2分。
ゴール前でボールをもらうと、前進。一度は倒れたが、2人のサポーターの力を受けてもう一度起き上がり、インゴールまで走り抜けた。
「(1番・長船)銀次と(2番・津村)晃志がガチっと掴んでくれました!」
後半の主導権を握りたい場面でトライまで結びつけた、値千金のプレーだった。
自身初の、そして今季御所実業として初の優勝を喜ぶ一方で、来る全国高校ラグビー大会奈良県大会への思いも募る。
「(決勝戦の)11月17日に勝ち切らないと、ここで勝っても意味がない。この日本一は、あくまでも通過点です。しっかりと天理さんに勝ち切って、僕たちが花園で日本一を獲ります」
佐賀県まで来られなかった、多くの仲間がいる。
「しっかり勝ち切ってくれ」と託された想い。
金メダルを胸に「勝ったよ」と伝えたい。