熊谷工業(A3)26-3 熊谷高校(B6)
熊谷工業
前半2分、熊谷工業2番・小澤勇斗キャプテンのトライで幕をあけた熊谷ダービー。
だがその後はいくつかのミスもあり、なかなか得点を畳みかけることができなかった。
「さすがクマタカ」と橋本大介監督は言う。
「クマタカがしぶといことは分かっていたし、しっかりと仕込まれていることも分かっています。だからそんなに簡単にいくとは思っていませんでした」
それでも、ミスの内容が「取り組んできたことに対するミス」とポジティブな要素だったことが大きい。
落ち着いて、流れを待った。
ハーフウェーよりも若干自陣で組んだ、マイボールスクラム。
No.8澁澤歩夢ゲームキャプテンがボールを投入すると、ショートサイドでボールを受け、そのまま蹴り上げる。
敵陣深くでタッチを割れば、50:22。流れを掴み、2トライ目へと繋げた。
後半の出足もゴールラインは遠かったが、18分に後半最初のトライを6番・坂本竜翔選手が仕留めれば、大きな声をあげて喜び合った工業フィフティーン。
インゴールを背負った相手ボールスクラムでは「ここだぞ!」とHO小澤キャプテンが鼓舞すれば、守り切った。
「キャプテンとして、ましてやFW第1列のフッカーとして、ここでスクラムを押されてしまったらおかしい。この場面で押すからこその工業だと思っていました」と笑顔を見せる。
ノーサイドの笛が鳴ると、抱き合い喜び合った熊谷工業の選手たち。
「昨年は準々決勝で敗れてしまっていたので、僕たちは『去年の熊谷工業を超える』という目標を掲げていました」
自分たちがAシードだという事実は関係ない。
まずは昨年の自分たちを超えられたこと。
それが嬉しかった。
試合前には、昨季のキャプテンから「頑張れよ、と心強い言葉を掛けてもらいました」と喜んだ
次戦の相手は、川越東。昨季の埼玉県王者に挑む。
「今日のクマタカのファイトをしっかりとうちがやらなければ、川越東には勝てません。でも気持ちを充実させれば、十分勝機はある」と気持ちを込めた橋本監督。
「今日はスコア面での焦りがありました。場慣れ、この緊張感を乗り越えないと、準決勝では勝てません。まずはメンタル作り、そしてこの1週間で接点を磨いて、下に刺さって、ターンオーバーできるチームにしていきたいです」(小澤キャプテン)
第90回大会以来14年ぶりとなる決勝進出に向け、士気を高める。
熊谷
キャプテン・榊原洋太郎選手は、この日が大学の受験日。
試合会場に訪れることができなかった。
バイスキャプテン・山口成選手は、1ヵ月前の練習試合で足を骨折。
ボールを前に運ぶプレイヤーと、トライゲッター。
2人の精神的支柱が、この日グラウンドに立つことができなかった。
対戦相手の熊谷工業・橋本大介監督は、試合後に言った。
「クマタカは良きライバル、良き仲間。すべてを知った仲なので、だからこそ試合中はなかなかうまくいかないことも当然ありました。クマタカが厳しいチーム事情であったことも、仲間として非常に胸が痛いです」
ゲームキャプテンを託されたのは、FWリーダーの3番・齋川季志選手。
ふだんは左プロップだが、3番を務める榊原キャプテンが不在のため、ポジションと役職を任された。
「洋太郎みたいに一番声を出して、一番体を張らなきゃと思って、無我夢中に声を出していました」
Aチームで務める、自身初めてのゲームキャプテンだったが「横田先生に『自分がやれることをやればいい』とおっしゃって頂いたので、特に気負うことはなかったです」と60分間を振り返る。
榊原キャプテンに託された言葉がある。
「チームを任せた。絶対に工業に勝って、また一緒にラグビーをやろう」
一番のムードメーカーであり、この1年間体で見せてくれていた榊原キャプテン。
その後ろ姿を見るからこそ、チームメイトは勇気をもって今までプレーすることができていた。
約束を果たせなかった悔しさに、齋川選手は「洋太郎に『ごめん』と一言謝りたいです」と肩を落とした。
横田典之監督の下でラグビーがしたい、と中学1年生の頃から勉強に励み、熊谷高校へと進学した齋川選手。
3年を振り返り、改めて出てくるのは感謝の言葉だけだった。
「ラグビーが一番成長できた3年間でした。ラグビー以外の生活面でも指導して頂きました。人間として器が大きくなったと思います。とても感謝しています」
悲願の花園行きは、後輩たちへ託す。
「横田先生の言っていることは、全て正しい。基本に忠実に、横田先生が言ったことをしっかりとやれば、花園に行く道も絶対ひらけると思う。1日1日の練習を身に着けて、アウトプットして、試合に生かしてほしいなと思います」