國學院久我山
試合終了の笛が鳴ると、バイスキャプテン・森将太郎選手とかたく抱き合ったのは齋藤航キャプテン。
万感の思いがこみ上げた。
「ホッとしました。昨年、決勝戦で負けた悔しさをバネにこの1年間、今日に懸けてきました。緊張もしていましたが、こういう結果に終わって本当にホッとしています」
この日の勝因の一つは、エリア取りだった。
FWが好スクラムをみせようとも、陣地獲得に苦慮した夏合宿。
しかし関東大会で肩を負傷していた10番・松下亮介選手が10月に復帰し、15番・加藤竜朗選手も戻ってくれば、強いFWを正しい位置で戦わせることができるようになった。
「今日はキックの蹴り合いで(松下・加藤の)2人がチームを救ってくれた。心強かったです」と齋藤キャプテンが話せば、土屋謙太郎監督も「予定よりも早く、体をレベルアップして帰ってきてくれた。リハビリ中に努力をしたのでしょう。頑張ってくれました」と、キープレイヤーたちの復帰を喜んだ。
松下選手の不在時には、齋藤キャプテンや2年生の宮下隼選手(14番)がスタンドオフを務めることもあったが、復帰後は土屋監督曰く「齋藤航にかかる負担が少なくなった」という。
実は準決勝、試合開始わずか12分で負傷退場していた齋藤キャプテン。
決勝戦ではポジションを2年生に託すことも考えたというが「ゲームの中での存在感、彼自身が自分からリーダーになろうとする姿」を感じ取った土屋監督は、そのまま12番に主将の名を並べた。
「勝ちも負けも知っている、3年連続3回目の秩父宮ラグビー場での試合。花園のグラウンドを知っている経験値を伝えたい、という思い」が、齋藤キャプテンを突き動かした。
怪我の功名もあった。
プレイスキックをFB加藤選手に託すことで、齋藤キャプテン自身がチームコントロールに専念できるように。
トライ後のハドルにも参加できたことが、プラスの影響をもたらしたのでは、と土屋監督は言った。
2人のキープレイヤーたちが怪我から戻ってきて2か月弱。
それまで培ったピース一つひとつがカチッとハマり、この日の勝利を手繰り寄せた。
それでも課題は多い。
前半は3つだった反則数が、後半は8。
重なった反則によって、トライも献上した。
「ターンオーバーしたいがゆえに焦ってしまった。取り急ぎすぎた感じがあります。もっと冷静にディフェンスをしていれば、あんなに苦しい場面はなかったかなと思う。でもこれも経験。次に繋げていきます」(齋藤キャプテン)
2年ぶりとなる花園の舞台へ、國學院久我山が舞い戻る。
生命線・スクラム
告げられたノータイムの合図。
ラックからボールを掻き出し、そのままタッチに蹴り出したのは2番・笠井大志選手だった。
昨年は敗れた、東京都決勝の舞台。
「今年は絶対花園に行かないと」と挑めば、モールトライを決めるなど奮起。スクラムでも圧倒した。
「安心しています。嬉しいです」
和らいだ表情を見せる。
とにかくスクラムが強い今年の國學院久我山。
1番・土屋裕資選手がその鍵を握るが、この日は土屋選手のトイメンに早稲田実業3番・岩崎壮志選手が立ちはだかった。
この秋、オール東京のメンバーとして同じジャージーを着て、国スポでのシルバーメダルを勝ち得た仲間でもある國學院久我山の1番2番、そして早稲田実業の3番。
「ずっとバチバチで、ずっと喋っていました」と笠井選手は笑う。
だからこそ國學院久我山のフッカーとして、スクラムをコントロールすることに笠井選手は注力した。
「(岩崎)タケシが前に出てくるスクラムだと感じたので、マイボールの時には1・2番で守ることを意識しました」
強いプレイヤーを受け止め、しかし譲らず100%で対峙する。
前半は主導権を握ったスクラムだったが、後半終盤には早稲田実業も奮起。いくつか相手にボールを渡す場面も訪れた。
「後半はミスも課題も多かった。2か月間ちゃんと詰めて、花園で勝てるようにしたいです」
友から大きな宿題をもらった。
笠井選手にとって、花園は初めて立つ場所。
「今日はバックスさまさまでした」と屈託のない笑顔を見せながら、来る年末年始に思いを馳せた。