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監督として初の優勝、初の4冠
「嬉しいです。だけど、まだまだ」
最初の15分間で流れを掴んだ決勝戦。
だが手応えを掴んだ後に、勢いがストップしてしまった状況も否めない。
特に後半は、戦い方がレフリングに合わせられなくなったこと。
課題多き決勝戦を終え、船戸彰監督は控えめに笑顔を見せた。
昌平高校が全国高校ラグビー大会に出場するのは、第102回大会以来2年ぶり。
その時にジャージーを受け取った経験を持つ現役選手は、わずか5人に留まる。
うち先発は1人、リザーブからの出場は3人だった。
「花園を経験していない選手が多いので、試合をコントロールすることがなかなか難しい」と語る船戸監督。
だからこそ埼玉決勝で手にした課題は、花園に向けた大きな収穫となった。
監督として迎える、初めての花園。
しかし、昌平はただの埼玉チャンピオンではない。
新人戦、関東大会予選、全国7人制に続く、埼玉4冠。
昌平高校ラグビー部史上初となる、心強い4つのトロフィーを前に、船戸監督は「選手たちに恵まれました」とほほ笑んだ。
「選手たち自身でやれるところ、意志が固いところ。練習中も試合中も、自分たちで会話ができる選手たち」と信頼を寄せる選手とともに、悲願の花園年越しへと挑戦する。
埼玉4冠は「通過点」
ノーサイドの笛が鳴っても、大きく喜ぶことのなかった昌平陣。
SH白鳥蓮キャプテンは「優勝できて嬉しい」と喜ぶ一方、「通過点としか考えていなかった」と話す。
自身のプレーも納得のいくものではなかった。
ペナルティがあれば、ハンドリングエラーも。
「全然うまく体が動かなかった」と振り返る。
「観客席にたくさんの人がいて、いつもと違う環境でした。ウォーミングアップまでは全く緊張しなかったのですが、Aグラウンドに入って観客席を見て、声を聞いたら一気に緊張してきちゃって」
スタンドには、ともに学びともに頂点を目指す、サッカー部や野球部の仲間も応援に駆け付けてくれた。
応援をプラスのエネルギーに変える、その嬉しさと難しさを知った。
これで、新人戦準決勝から続く無失点記録は途絶えた。
悔しさがよぎる一方で「自分たちが成長すると同時に、相手も成長していた」とライバルを讃える。
「12失点の課題、フェーズにおける課題も見つかりました。昌平としてどういうアタックをしてどうディフェンスをするのか、もう一回考えて練習していきたいです」
いま改めて宣言する。
全国での目標は『花園ベスト8以上』。
悲願の年越しを果たすだけでなく、1月1日に勝てるチームをひたむきに目指したい。
「そのためにも、1個2個、3個4個。自分たちが追い求める昌平のラグビーを、どんどん高めていきます」
昌平は毎日毎練習、進化を続けると誓う。
辞めなくてよかった
地元・所沢ラグビースクールで楕円球を握ったのは、CTB/WTB山口廉太選手。
小学5年生の冬、ラグビーを始めた。
高校進学の時期が近づくと、スクール仲間はラグビー部がある高校にと、川越東や川越などへの受験を決めた。
しかし山口選手は例外。
進学した先にラグビー部があればラグビーでも、なければそれ以外の部活動でも。
『ラグビー部がある高校』へのこだわりは、特段持ち合わせていなかった。
ところが考えが変わったのは、埼玉県選抜の練習会でのこと。
現在、川越高校ラグビー部で監督を務める柳澤監督から、声を掛けられた。
「今度、昌平の練習会があるから行ってみないか?廉太なら上のチームでもできる」
その言葉を受け、当初は全く候補に入っていなかった昌平への進学を考えるようになった。
入学後はあっという間に頭角を現した。
1年時から、同学年で唯一のスターティングメンバー入り。第102回全国高等学校ラグビーフットボール大会にも先発出場した。
最上級生となった今年はスーパーエースとして、チームを7人制大会で全国ベスト8へと導く。
もちろん今大会でもトライを量産し、決勝戦でもハットトリックを決めた。
迎える、2度目の花園。昌平のジャージーを着て挑む、最後の大会。
秘める想いは強い。
「ラストイヤー。誘ってもらった、恩返しがしたい。入学して1年生からレギュラーになるという目標も達成できました。最後の花園では、自分らしい力強いプレーを見せたいです」
やわらかに目尻を下げた表情からは想像できぬ、脚力を生かしたプレーで、必ずや花園を沸かせる。
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