高校ラグビー2024 エトセトラ ~忘れたくない光景たち

伸ばした手

大分東明。

九州王者として迎える、初めての花園だった。

全国高校ラグビー大会準々決勝・常翔学園戦。

地元・大阪の大声援は常翔学園に向けられ、大分県のチームにとっては試合前からアウェーな環境だったことは、説明せずとも想像つくだろう。

LO石川波潤キャプテンはピッチイン目前、何度も息を吐き、手を合わせ、深くお辞儀をした。

「しっかり息を吸って、大阪を感じようとしていました」

アウェーな中でも自らキャプテンとして落ち着いてプレーしなければ、と胸の中で反すうした。

敵陣ゴール前で獲得した、ラインアウトでのこと。

石川キャプテンは、ラインアウトに並ぶ常翔学園の選手たちに向けて手を伸ばし、グータッチを求めた。

「相手にリスペクトを持たないとラグビーは成立しない。リスペクトを忘れず、正々堂々と戦いたかった」と説明する。

レフリーとも密にコミュニケーションを取るよう努めた。

「自分たちの悪い点はないですか?」

スクラムで思うような組み合いができなかったが、逃げるという選択肢は一切、チームとして持たなかった。

19-24の5点ビハインドで迎えた、ラストワンプレー。

キャプテン自らラックの真上を越え、ゴールラインに迫る突破を見せた。

だがトライするには、僅かに届かず。試合終了を告げる笛が鳴った。

ノーサイドの瞬間、膝をつき崩れ落ちた石川キャプテン。

「2年生の時は怪我で試合に出られず、悔しい想いをしました。だからこの1年、キャプテンとして死に物狂いで頑張ってきました。もうちょっと、助けてくれた仲間たちと試合をしたかった」

言葉を絞り出した。

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たどり着かなかったベスト4、そしてファイナルの舞台。

石川キャプテンは、後輩たちに託したい想いがある。

「チームが一つになること。ゴール前でどうやってトライを取り切るのかは『絆』というか。練習から合わせていくしかないかな、って。1年間の自分たちを信じ切ることが大事だと思いました」

チームを率いる白田誠明監督は、そんな石川キャプテンら選手たちを見つめながら言った。

「高校ラグビーは通過点。この子たちには、もっと素敵な将来があるでしょう。ここで得た学びを次に生かしてもらえれば、我々の役目は成功だったんじゃないかな、と思います」

大分東明とは、そう。エンジョイラグビーを一丁目一番地に据える学校。

「『伝統』よりも『楽しさ』で勝ちます。うちは、違う登り方で山を登ります」

改めて花園の地で断言した白田監督。

初めてのベスト8の景色を見てなお、エンジョイラグビーを貫くことを誓った。

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