伸ばした手
大分東明。
九州王者として迎える、初めての花園だった。
全国高校ラグビー大会準々決勝・常翔学園戦。
地元・大阪の大声援は常翔学園に向けられ、大分県のチームにとっては試合前からアウェーな環境だったことは、説明せずとも想像つくだろう。
LO石川波潤キャプテンはピッチイン目前、何度も息を吐き、手を合わせ、深くお辞儀をした。
「しっかり息を吸って、大阪を感じようとしていました」
アウェーな中でも自らキャプテンとして落ち着いてプレーしなければ、と胸の中で反すうした。
敵陣ゴール前で獲得した、ラインアウトでのこと。
石川キャプテンは、ラインアウトに並ぶ常翔学園の選手たちに向けて手を伸ばし、グータッチを求めた。
「相手にリスペクトを持たないとラグビーは成立しない。リスペクトを忘れず、正々堂々と戦いたかった」と説明する。
レフリーとも密にコミュニケーションを取るよう努めた。
「自分たちの悪い点はないですか?」
スクラムで思うような組み合いができなかったが、逃げるという選択肢は一切、チームとして持たなかった。
19-24の5点ビハインドで迎えた、ラストワンプレー。
キャプテン自らラックの真上を越え、ゴールラインに迫る突破を見せた。
だがトライするには、僅かに届かず。試合終了を告げる笛が鳴った。
ノーサイドの瞬間、膝をつき崩れ落ちた石川キャプテン。
「2年生の時は怪我で試合に出られず、悔しい想いをしました。だからこの1年、キャプテンとして死に物狂いで頑張ってきました。もうちょっと、助けてくれた仲間たちと試合をしたかった」
言葉を絞り出した。
たどり着かなかったベスト4、そしてファイナルの舞台。
石川キャプテンは、後輩たちに託したい想いがある。
「チームが一つになること。ゴール前でどうやってトライを取り切るのかは『絆』というか。練習から合わせていくしかないかな、って。1年間の自分たちを信じ切ることが大事だと思いました」
チームを率いる白田誠明監督は、そんな石川キャプテンら選手たちを見つめながら言った。
「高校ラグビーは通過点。この子たちには、もっと素敵な将来があるでしょう。ここで得た学びを次に生かしてもらえれば、我々の役目は成功だったんじゃないかな、と思います」
大分東明とは、そう。エンジョイラグビーを一丁目一番地に据える学校。
「『伝統』よりも『楽しさ』で勝ちます。うちは、違う登り方で山を登ります」
改めて花園の地で断言した白田監督。
初めてのベスト8の景色を見てなお、エンジョイラグビーを貫くことを誓った。