川口高校
何にも代え難かった
どれだけトライを取られても、ワンシーンごとに仲間の良い所を見つける選手がいた。
7番・平田裕也(3年)選手。
チームではバイスキャプテンを務めており、負傷し出場できないキャプテンに代わって、この日はゲームキャプテンを務めた。
前半終盤のこと。
昌平のノーホイッスルトライが続いた後に、川口が攻めに転じた時間があった。
それでも押し戻され、トライならず。逆に被トライをあびた。
そのトライを取られた後、インゴールで集合した仲間に向かって平田ゲームキャプテンは、ひとつの言葉を発する。
「何分ぶりの(被)トライ?成長してるよ、伸ばしていこうぜ」
その言葉の理由について、平田ゲームキャプテンは優しい眼差しで説明した。
「昨年、昌平さんと戦った時にすごく点差が開いてしまったんです。1トライごとに、チームの雰囲気が下がってしまって。自分も試合に出ていたのですが、雰囲気が下がった状態でプレーすると、自分の本来の実力が出せないことが分かりました。だから自分の『本気以上』が出せるように。今日はみんなを励まして、高い強度でプレーしようと話をしました」
トライを取られた数は21本。
その度に組んだ円陣の数も、21回。
「昌平、速いな。止められないな!」と笑顔で悔しさを口にすれば、「バインドしよう」と短く端的に、次の修正点を伝えた平田選手。
そして仲間の良かったプレーを見つけ、「ナイス!」とサムアップ。
公式戦で初めて務めたゲームキャプテン。
だが緊張よりも「楽しみが勝ちました」と笑った。
平田ゲームキャプテンがラグビーを始めたのは、高校に入ってから。
中学時代はなんと演劇部。高校入学時に勧誘を受けたことが、楕円球との出会いだった。
「最初は『ちょっと雰囲気がイヤだな』と思ったんです(笑)でも、やってみたら全然そんなことなくて!すっごい楽しくて!!体験入部でミニゲームをしたときに、自分でボールを持ってトライした時の気持ち良さが、何にも代え難かったんです」
現在の部員数は、3年生9人。2年生19人に、1年生は13人。総勢41人のプレイヤーがいるが、ラグビー経験者は1年生の1人だけ。
のこり40人は、高校でラグビーを始めた初心者集団だ。
ラグビーを始めること。そして、続けること。その両方のハードルの高さを知る平田選手は言う。
「僕がラグビーを続けられているのは、仲間の存在が大きいです。今日も自分が言ったことに対して、みんな士気を上げてついてきてくれました。そのレスポンスに背中を押されています」
言葉どおり、平田ゲームキャプテンの言葉のあとには仲間が前向きな言葉を重ねた。
これから、勝つことも負けることもあると思う。でもまずは勝つことを目指したい
試合終盤、敵陣深くまで攻め込んだシーンがあった。
ゴール前でペナルティを奪い、敵陣5mからマイボールラインアウトのチャンスも得た。
ボールを確保し、モールを組み、塊になってサイドアタックを仕掛けたが、トライならず。
平田選手は、その先頭で体を当てていた。
ボールを持って前に倒れ、確実にボールを後ろに送ることの難しさを知った春。
秋には、少しでも違う姿を見せたい。
「これから、勝つことも負けることもあると思う。でもまずは勝つことを目指して。負けたとしても、そこから学びを得て、次の対戦時には勝てるようにしていきたいと思います」
勝利も、敗戦も。
楕円球のもとに出会った仲間とともに、ページを重ねる。