國學院栃木の保護者らが着用している応援Tシャツの背面には、『31』の番号が書かれている。
吉岡肇監督に聞けば、「各大会で選手登録される数は30名。その次の数字が31。一番近い所で応援する人」だからだそうだ。
今年の部員数は、マネージャー含め109名を数える。
パンフレットに名前が載るのは、登録メンバー30人だけ。そこに入れなかった70人以上の選手が、試合の日もグラウンドの外から声を枯らす。
だが、彼らに役割がないわけではない。
ウォーターとしてチームの側にいる選手も。スタンドから「ビッグスクラム!」と叫び、仲間にエールを届ける選手もいる。
それが國學院栃木高校ラグビー部。
6月8日(日)に行われた、第73回関東高等学校ラグビーフットボール大会 Aブロック決勝戦。
國學院栃木は、桐蔭学園と対戦した。
3年連続の同一カード。近年の関東高校ラグビー界をリードしてきた2校が相まみえれば、50-7で國學院栃木が勝利した。
奪った8トライ。1トライに抑えた守備。気持ちがプレーに結びついた、良いラグビーだった。
後半も、時間が深くなってきた頃のこと。
ふとベンチを見ると、涙を拭う選手たちの姿が目に入った。
モールトライを取れば飛び跳ねて喜び、スクラムでペナルティを取ればガッツポーズをしてから、涙を零した。
吉岡監督は言う。
「これがコクトチだよね」と。
「”一体感”、これがうちのスタイル。観客席から、父母会から、怪我人もマネージャーも一体となっている所が『コクトチなんだ』という感じがしますね。コクトチファミリー、そこがいいんじゃないでしょうか」
その言葉を、誰よりも体現する一人のマネージャーがいる。
3年生の岡田美咲さん。試合中、ひっそりと涙を拭った。
「得点が積み重なっていくにつれて勝利は明確になっていくけど、だけど安心できない感じがあって。花園では(リードし前半を終えても後半に)逆転されたからこそ、安心できない感覚がありました。だから緊張感もあったし、その負けから頑張ってきた109人でやってきたことが結果にちゃんと繋がってくれたことが嬉しかったです」
関東大会初日。選手たちが学校を出発するその朝、岡田さんは“あるもの”を選手たちに手渡していた。
船の形をした、手作りのお守り。
表には背番号を、裏面には名前と集合写真を貼りつけた。
「今年は『福田丸』なんです」
主将・福田恒秀道選手の名字からつけられた今季の愛称だという。
ただ制作時間が足りず、今回渡すことができたのは福田キャプテンのもののみ。
「船長だけは持っていて」と願いを込めた。
「全員が『絶対に見返してやろう』と言い、始まった関東大会でした」(岡田マネージャー)
全国選抜大会で1回戦敗退を喫してから2カ月半。
「苦しいことをたっくさん乗り越えてきた」と、選手たちの最も近くで時間を共にする岡田さんは言った。
「ここに辿り着くまでには、船にたくさんの穴が空きました。だけどその穴をツネ(福田キャプテン)が埋め、ツネのためにとみんなで修復してきました。今のチームで、日本一を目指します」
高校ラグビーは、毎年チームが生まれ変わる。
國學院栃木は、この形で、この船で。今年の頂を目指す。
船長・福田恒秀道キャプテン
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