合言葉は『桐蔭学園を倒す』
打倒・桐蔭学園を掲げ、日々の練習に打ち込んできた國學院栃木。
だから「昨日の試合(茗溪学園戦)が終わってから1日で準備した、というよりも、全国選抜大会に負けてからずっと、桐蔭学園をターゲットにしてきました。ずっと桐蔭対策をしてきて。だからその準備の差が出たかな、と思いました」
そう話したのは、12番・福田恒秀道キャプテン。
気持ちの大きさでは、絶対に負けない自信があった。
前日の茗溪学園戦で課題に挙がった“アタック下でのブレイクダウン”は、見事なまでに修正されていた。
「ハドルのたびに『継続すれば絶対に得点を取れるから。とにかく継続しよう』と伝えていました」と福田キャプテン。
セットプレーが安定し、フォワードが前に出たことで、バックス陣も自在にトライを重ねた。
今大会、2試合でわずか7失点。
だが彼らがこの春、重点を置いていたのは“アタック”だった。
「結局、桐蔭学園に守り勝とうと思っても(昨冬の花園で)勝てなかった。だからアタックにフォーカスしてきました。ディフェンスは、ふだんのアタック練習の時にディフェンス側が自分たちで意識をして。ディフェンスの練習を主にするというよりも、アタック練習の時にディフェンス練習をする形でした」
その取り組みは、現在リコーブラックラムズ東京でバックスコーチを務める有賀剛氏の言葉と重なる。
――なぜ、トニー・ブラウンが良いアタックコーチなのか。彼はディフェンスが上手い。良いディフェンスができるから、良いアタックコーチになれるんです――
福田キャプテンが言わんとしていることは、そして國學院栃木が積み重ねた日々の練習は、きっと同じ意味を持つのであろう。
基盤となるディフェンスは、國學院栃木に『紺の血』として流れるようになった。だから次は、自分たちのディフェンスをも超えるアタックを生み出したい。
桐蔭学園を倒す。
合言葉のように口にしていた想いを、まずは地元・栃木で達成した國學院栃木。
次なる照準は、やはり1月7日へと向かう。
「僕たちの大きな目標は、花園優勝です。春シーズン、自分たちは思うような結果を出せなかったので、この関東大会を一歩目にしたい。これからさらに成長しなければ、花園で敗れてしまうと思います。もう一回、これを糧に。ここを一歩目として、成長していきたいです」
ラストトライを決めた後のこと。
試合時間は残っておらず、これでノーサイドだと理解していた選手たちは、15番・手塚慈英選手がコンバージョンゴールを蹴り込む姿を、横一列に整列して見届けた。
ソックスを上げ、ジャージーの裾をしまい、ヘッドキャップを取って。
そしてノーサイドの笛が吹かれても、喜びを表すことなく紳士にその瞬間を迎えた。
緊張10割、ワクワク10割
この日、4トライの大活躍を見せたのは15番・手塚慈英選手(3年)。
プレイスキッカーも務め、この日手塚選手が自らの手と足でスコアした総得点は30点。全50点中の6割を占めた。
ラグビーを始めたのは、2歳の時。江戸川区ラグビースクールで楕円球を握り、中学時代は浦安D-Rocksジュニアに所属した。
國學院栃木を志すようになったのは、中学2年生の頃。國學院栃木が花園で準優勝する姿を見れば、憧れを抱いた。
かくして栃木へやってくると、公式戦に出場できるようになったのは自分たちの代になってから。1、2年時は研鑽に励み、ようやく巡ってきた3年目の6月に”爆発”した。
大事な試合で4トライ。1試合での4トライは、もちろん「これが人生初」だという。
「チームメイトが繋いでくれて、そこに自分は走り込んだだけです」と謙虚に言葉を紡いだが、最後の”一伸び”によって決まったトライも少なくなかった。
正直に言おう。試合前は、なんとも言えない感情だった。
「とても緊張しているのが10割。ワクワクが10割でした(笑)」
心の中は、パンパンに膨れ上がった状態だった。
期待と不安がせめぎ合う中で魅せた活躍ぶりに、試合後、吉岡肇監督は「よくやった!」と声を掛けた。
それが「嬉しかったです」とほほを緩めた。
後輩に負ける気はない
4か月前の関東新人大会時と比べ「自分たちの成長を感じられたスクラムだった」と言ったのは、先発フロントロー陣。
1番・中司心弥選手、2番・千野雄平選手、3番・岡田佑獅朗選手。
「前半のマイボールスクラムでしっかり圧力をかけた」からこそ生み出せた、試合終盤のスクラムペナルティだった。
身長差5㎝以内という愛らしい並びで、歓喜の1枚に収まった。向かって右から順に、1番・2番・3番
「ヒットの瞬間に勝った」と言ったのは、1番・中司選手。
「いつもどおり、時盛さん(長山時盛スクラムコーチ)に教わっている『低く固まる』ということができました」と笑顔を見せた。
2番・千野選手は、兄も國學院栃木でプレーした兄弟プレイヤー。この日は2つ上の兄・太雅のラグビーパンツを履いて挑んだ。
「目指すはここから負けなし」と力強い言葉を誓う。
1年生には既に体格勝る選手が多く入ってきたというが「コクトチでやってきた年数が違う。プライドも持っている。後輩に負ける気はない」と宣言したのは、3番・岡田選手。
先発フロントロー唯一の2年生ながら、気持ちの強い一面をのぞかせた。
スクラムでは最前線で体をぶつけるFW第1列。
前から受ける圧力をやり過ごしながら、後方からの押しはエネルギーへと変換し、このチームのプライドとして全身を捧げるフロントローたち。
小さな体に宿る、おっきなチームへの愛情は、これからもスクラムで示し続ける。
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