6月8日(日)に行われた、第73回関東高等学校ラグビーフットボール大会 Aブロック決勝戦。
キックオフを迎える、およそ2時間前のこと。
会場入りした桐蔭学園・藤原秀之監督は言った。
「(今日は)やれることをやりましょう、と。だから、やることを少なくする。だってできないんだから。できないことをやろうとしているんだから、できることだけをやりましょう、と。できないことは、やらないです。本当はチャレンジしたいんだけれど、いまはそれをできる感じではないので」
この日の桐蔭学園は、静かだった。
花園2連覇を達成した直近2年間は、ともすれば別グラウンドでウォーミングアップをする桐蔭学園の声の方が、試合中のチームよりも大きく聞こえることが多かった。
だがこの日は、どうしてか静か。
ウォーミングアップしかり。試合中に選手たちがとるコミュニケーションの声しかり。もっと言えば、コミュニケーション量は対戦相手と比べても圧倒的に少なかった。
加えて、監督・スタッフ陣からの檄も僅かばかり。
相手ボールラインアウト時には、フッカーの堂薗尚悟キャプテンが発する高い声で「桐蔭学園の試合を観ている」と感じることも多かったが、その声すら記憶に残らないほどに静かだった。
前半は、もしかしたらベンチメンバーから発せられる声が一番大きかったかもしれない。
しかしその声も、だんだんとボリュームは下がった。
一貫して桐蔭学園らしくない試合だった。
接点で勝てず、ラインアウトが取れない。
ボールは繋がらず、カウンターラックは”する”よりも”される”方が多かった。
試合終盤にはスクラムで2度、ペナルティをとられた。
策を出しようにも、出せる策を見つけることに苦労しているようだった。
喉仏のもっと手前で、何かが詰まっている。そんな時間が続いた。
全国大会を知る選手たちが、こぞって故障中だったことも一因であるだろう。
全国選抜大会後に負傷したCTB古賀啓志選手に、サニックスワールドユースで負傷したプロップの喜瑛人選手は戦列を離れている。
そしてバイスキャプテンのCTB坪井悠選手に、今年の全国選抜大会で本格ブレイクしたFL長尾峻選手は、揃って前日の1回戦で負傷してしまった。
今季の高校日本代表候補には同校から8名が選出されているが、そのうちの3名はメンバー外。左プロップの田邊隼翔選手も、この日の後半早々に負傷し退いた。
決勝戦の先発メンバーには、神奈川県大会以外の公式戦で出場したことのない選手もいた。
それでも、試合メンバーに関して言い訳はしない。
負傷者の影響があったのか、と問われた藤原秀之監督は「そんなこと関係ないですよ」と言った。
桐蔭学園のジャージーを着るからには、桐蔭学園のラグビーをしなければならない。それが、桐蔭学園。

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