國學院栃木に8つ目のトライを取られた、後半25分過ぎ。
関東大会はランニングタイムの25分ハーフで行われるため、このコンバージョンゴールが蹴られれば試合終了が決まっている場面でのこと。
もう1人のバイスキャプテン、7番・前鹿川雄真選手はトライエリアで声を張り上げた。
「お前らプライドないのか?俺らトーインだぞ?俺らトーイン背負ってるんだぞ!」
仲間の目を見て、自らが着ているジャージーを指さし、そう叫んだ。
桐蔭学園の7番は、昨年のキャプテンが背負っていた番号。
かつて見た背中を、受け継ぐ責任。
25のジャージーにたどり着けず、悔しさを押し殺しながら近くでサポートをしてきた選手だって、これまでに数えきれないほどいることを知っている。
試合後。藤原秀之監督は言った。
「これが今現在の正しい位置です」
「改めて正しい位置が分かったんで、良かったです」
「(これから先は)新しいチームになっちゃうかもしれない。みんな1年生になっちゃうかもしれない。ちょっとひどかったですね」
一貫して口数は少なかったが、その声色はしかし穏やかだった。
試合を終えれば、すぐに会場を後にするのが桐蔭学園流。
たとえ勝っても、たとえ負けても。
だがこの日、その足取りには幾分かの猶予があった。
もしかしたら、帰りのバスの時間が少し遅めに設定されていたのかもしれない。
もしかしたら、その行動には全く意味のないことかもしれない。
だが、もしかしたら、なにか意味のあることなのかもしれない。
振り返れば3年前の関東大会。桐蔭学園は、Cブロックで戦った。
2年前はAブロック決勝戦で、國學院栃木と14-7の激闘を演じた。
昨年は、Aブロック初日の昌平戦をビハインドで折り返した。
そんな日々を経て、それでも歩みを止めなかったのが桐蔭学園。
「俺らトーインだぞ!」
ジャージーに染み込んだ汗が『トーイン』であることを思い出させてくれた。
今大会はスローイングが安定せず、終始俯き加減だった堂薗キャプテン。一戦を振り返り、まずは矢印の先を自らに向けた。
「今年の3年生は体が小さくて、修正能力もでき上がっていなくて、昨年のようにパワーのある選手もいなくて。とにかく偏差値の低く、弱いチームということを今日の試合で理解できました。
そして、自分自身がチームに向き合っていなかった。まずは自分が率先してチームに声を掛けることもできていなかった。今日の敗因は自分だと思っています」
春の全国選抜大会時よりも、一回りも二回りも物理的に大きくなった堂薗キャプテン。その体格を見れば、日々の努力を怠っていないことは一目瞭然だった。
向かうは夏。桐蔭学園は、走り込みを主とした1次合宿と、花園を見据え強豪校との連戦を戦う2次合宿を、菅平高原で行う。
「時間は待ってくれません。自分たちは体が小さいので、とにかく相手よりも走ることを意識しなければ絶対に勝てない。とにかく一つひとつのプレーを正確に。キャッチ、パス、タックル、裏への判断を一人ひとりが向上させていこうと思っています」
そして「自分と向き合いたい」とも言った。
「自分に何が足りないかは、もう絶対に分かっています。チーム全体としても、今何が足りないかが分かったので。そこに取り組んで、夏に向上させて。秋、11月16日の神奈川県予選決勝で勝つことを意識して、これから練習をしていこうと思います」
静かな一戦だった。しかし、その静けさの裏には、確かに“トーイン”の魂があった。
敗戦が教えてくれる答えを探しに、桐蔭学園は再び歩き出す。
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