【決勝】昌平 28-14 慶應志木
気温はゆうに35度を超え、照りつける日差しの中行われた決勝戦。
この日3試合目。ともに体力の限界点を超える中、熱戦の火ぶたが切られた。
先制したのは昌平。
キックオフ直後は慶應志木がポゼッションを有していたが、昌平が自陣深くのブレイクダウンでペナルティを奪うと、そこからワンアタックで取り切る。
決勝トーナメント3試合目にして、昌平が初の先制トライを奪った。
7-0。
続くリスタートキックオフからノーホイッスルを決めたのは慶應志木。
「脚力と馬力がある」と浅野優心キャプテンが評する3年生の川田真広選手が、左サイドを駆け上がれば7-7。試合を振り出しに戻した。
その後も、慶應志木の攻撃は続く。
前半終了の鐘が鳴る中、敵陣深くまで攻め込んだ慶應志木。
だがトライライン目前でノットリリースザボールを取られ、追加トライならず。
そのまま前半を終了するかと思われたが、しかしタップキックからクイックスタートを切ったのは昌平の宮本セブンズキャプテン。
数十メートル走ってボールを順に渡せば、最後は大外でトライエリアにたどりつく。
14-7、昌平の7点リードで前半を折り返した。

後半のファーストトライも、昌平が手にする。
キックオフボールをキャッチした所から左サイドで勝負すると、ラックからショートサイドに持ち出したのは宮本セブンズキャプテン。
嗅覚をプレーに結び付ける、頭一つ抜けた才能を見せれば21-7。
対する慶應志木も、浅野優心キャプテンが気持ちのこもったプレーでボールを持ち込めば、21-14と7点差につめた。
あと1トライ1ゴールで同点、という局面で敵陣深くまで攻め込んだ慶應志木。
ラストチャンスを伺う。
しかし僅かな隙間と僅かなタイミングのズレを生み出した昌平が、自陣22m内から振り切れば、やはりここも宮本セブンズキャプテン自らのトライでノーサイド。
見事、昌平が今季3冠目を手にした。
優勝・昌平
「昨日の予選も、今日の準々決勝・準決勝も試合の入りが悪かった。だから決勝戦では先制トライが取れた」と話すは、セブンズチームのキャプテンを務める宮本和弥選手。
決勝トーナメントMVP級の活躍で、チームを全国大会に導いた。
今年の大きな特徴は、そのチーム編成にあった。
「2・3年生が8人、1年生が7人ぐらい。1年生のウイング陣が、本庄第一戦ではトライを取ってくれました。外(にいる1年生ウイング)にボールを預けたら自信をもって走ってくれたことが大きかったです」
なんとおよそ半数が、ルーキーたちで構成されていた。
吉澤誉選手
宮本セブンズキャプテンが言うとおり、特筆すべきはスピードで振り切ったウイング陣だろう。
吉澤誉選手に、大西隼叶選手。
1年生のスピードランナーたちが、トライゲッターを担った。
400mハードルのオリンピアンだったという父譲りの脚力でタッチライン際を駆け上がったのは、吉澤選手。15人制ではまだ公式戦出場経験を有さないが、そのスピードは群を抜いた。
大西選手は2週間前に行われた関東大会にも先発出場しており、その度胸とチームメイトとのコンビネーションで準決勝・本庄第一戦勝利の立役者となった。
大西隼叶選手
また落ち着いたプレーで攻守を安定させた木場理人選手も同様に、1年生。
セブンズではスクラムハーフをはじめとする、マルチポジションをこなせる万能プレイヤー。首脳陣からの信頼も厚い。
木場理人選手
とはいえ、決勝トーナメントは3試合ともに厳しい展開だった。
とくに準決勝・本庄第一戦では10点のビハインドでハーフタイムを迎えた。
それでも後半の4連続トライで一気に流れを掴み、守っては後半、相手をシャットアウト。
「暑さと体力だったら、自分たちに分がある」と御代田誠部長から試合前に伝えられていたことが自信にもなったという。
「前半にもう1トライ取られていたらキツかったと思います。でも、そこで踏ん張ることができました」
後半は、3試合すべてでファーストトライを奪った。
これで2年連続、全国高等学校7人制ラグビーフットボール大会への出場を決めた昌平。
昨年は同大会7位。初めて全国大会ベスト8の景色を見た、思い入れのある大会でもある。
昨大会後は涙を零し、悔しさを露わにしていた当時高校2年生の宮本セブンズキャプテン。
今年の意気込みを問うと「チームとして完成させて、昨年の7位を超えたいです。15人制では『今年は弱い』と言われているので、セブンズで見返して、秋の花園予選に繋げたい」と気持ちを新たにした。
堂々とためらうことなくプレーするルーキーと、場を締める上級生。
このバランスは、果たして1ヵ月後にどう進化するか。
準優勝・慶應志木
「オリンピックと同じくらいのタイミングで決勝に進んでいる」と笑ったのは、竹井章部長。
4年ぶりに迎えた、決勝の舞台だった。
準々決勝・準決勝と、接戦を勝ち抜いた。
準々決勝の相手は熊谷工業。関東大会予選で対戦し敗れていたが「バックスだったら勝負できる」と手応えを得ていたと話すは浅野優心キャプテン。
「チームとして強気でプレーしよう、という統一した意志がありました」
準決勝では川越東に勝利。
「県2位のチームと戦う上で、1対1では勝てないと思っていました。だから組織的に戦えたことが勝因の一つです」と口にする。
実を言えば、セブンズの練習を始めたのはゲームウィークが始まってから。日数にして、3日ほどだという。
それでも「組織的に戦えた」と語るには理由がある。
監督らの繋がりから、元セブンズ日本代表の成田秀悦氏が指導にあたってくれたというのだ。
わずか1日の短いコーチングだったが「セブンズの考え方、基礎基本を教えてもらいました」と感謝する。
トップレベルの教えをすぐに体現できる理解力で、4年ぶりの快挙は生まれた。
掴み取った決勝の14分間。
激闘を終えた選手たちの表情は、晴れやかだった。
週が明ければ月曜日からは、期末試験が待ち受けている。「たぶん赤点の人もちらほら・・・」と笑った浅野キャプテン。
それでも現役選手にとっては、初めて経験した公式戦決勝の舞台。
「本当に良い経験をさせてもらいました。決勝で勝ち切ることが難しいんだと実感することもできました。これがきっと秋に繋がる。15人制にもこのマインドを落とし込みながら、勝ち切れるゲームをしていきたいと思います」
暑い1日。忘れられぬ、熱い思い出となった。