MVP 池田健心
「自分が呼ばれると思っていなかったので、嬉しかったです」
たくさんのメディアからの取材を受けた後、少しはにかみながら、でも笑顔でMVPを受賞した感想を口にしたのは池田健心選手(3年生)。
「國栃の歴史の中で、形がどうであれ初めて全国優勝できました。結果に対してすごく嬉しいです」
決勝戦で2トライ。
しかも前半、流れを呼び寄せるために必要だった先制トライを含む2連続トライを決めたのが池田選手だ。
MVPに値する活躍だったことは間違いない。
しかし「僕自身はそこまで・・・」と謙遜した。
「大会の途中では自己中心的なプレーになってしまったり、準決勝でも迷惑を掛けたりしました。それまではあんまり良くない流れだったので、決勝の2トライで巻き返せたことが嬉しかったです」と喜ぶ。
今大会をとおして精神的に強くなった、と感じるという。
いよいよ本格化する夏。
この経験を、冬に繋げるための夏がやってくる。
最終学年の今年、夏に誓う。
「セブンズで優勝したことをここで終わらせたくないです。セブンズで学んだ『ディフェンスは我慢』、チームで掲げてきた『根性』をそのまま15人制でも生かして、みんなで声を掛け合いながら頑張っていきます」
光る直感。支えられた喜び
試合の流れを大きく手繰り寄せた場面を一つ挙げるとすれば、決勝戦・後半4分のトライシーンだろう。
スコアは14-7。1トライ1ゴールで追いつかれる状況。
國學院栃木は右サイドで大きく陣地を広げ、もう一歩でトライというところまで迫ったが、しかし大分東明の執念のタックルで痛恨のノックフォワード。
敵陣5mで、相手ボールのスクラムを与えてしまった。
しかし、そのピンチにも冷静に状況を分析していたのが國學院栃木・福田恒秀道キャプテンだった。
スクラムからボールが出てきた瞬間、福田キャプテンは迷いなく大分東明のスクラムハーフ目掛けて飛び込む。
一気に距離を詰め寄られた相手スクラムハーフはボールをこぼし、ノックフォワード。
そのチャンスを逃すまいと國學院栃木・橋本健吾選手が拾い上げると、オープンサイドにボールを繋ぎ、最後は1年生の白谷怜大選手がトライ。
再び流れを呼び戻す、決定的な得点を決めた。
実はその前にも何度か大分東明ボールのスクラムは組まれていたが、そこではあえてプレッシャーをかけずにいたという福田キャプテン。
もちろん相手スクラムにプレッシャーをかけることはセオリーだが、スクラムが安定しており「ここでプレッシャーを掛けに行ってもボールは取れないな」という判断のもと、それまではノープレッシャーでやり過ごしていた。
だからこそ「相手は気を抜いているかもしれない」と想定し、動く。
「ゴール前でのスクラムだったので、(球出しのスクラムハーフに)プレッシャーをかけてみました」
ここぞ、の場面の直感が光った。
この大会をとおして、福田キャプテンには一つの大きな学びがある。
それは『支えられる喜び』を知ったこと。
これまでの福田キャプテンは、常に「どうすれば自分がチームの力になれるか」を考え続けてきた。その姿勢は大会中も変わらず、ウォーミングアップの最中ですら、自らの役割と責任を胸に刻んでいた。
しかし今大会、そんな彼の視界が少し変わる。
「チームメイト1人ひとりが、チームのために動いてくれた。心が楽でした。自分も支えられながらラグビーできているな、と初めて感じました」
ベンチから聞こえる声援もまた、誇り。
出場していない選手までもが、全身全霊で仲間を鼓舞し続ける。その声の大きさ、熱のこもり方は、間違いなくどのチームにも負けていなかった。
ひとりでは越えられない壁も、仲間となら越えられる。
セブンズで、福田キャプテンは支えられる喜びを知った。
「セブンズメンバーは、どうすれば日本一を獲れるのかを学びました」
そう語る福田キャプテンは、この経験をチーム全体へ還元することを決意している。
「この経験を、部員全員で共有していきたい。まとまって、日本一を目指したいです。日本一を目指すチーム作りをしていきます」
全国優勝の景色を知ったチームが踏み出す、次の一歩。
“支え合う強さ”を身につけた彼らは、すでに次のステージへと歩みを進めている。
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