【Stories】互いを知った近畿。学びを充実に変えた九州に、課題と向き合う関東。『価値ある勝ち』なU18九州と、静かで激しき女子決勝|KOBELCO CUP 2025

価値ある勝ち|U18九州ブロック

「先手を取りましょう。先手を取って、楽しくラグビーをしましょう」

それしか言っていないんです、と笑ったのは、U18九州ブロックで監督を務めた大原勇三氏。

「選手たちが楽しんで、生き生きとしていました。準備を含め先手を取れたことが大きかった」と振り返った。

その言葉どおり、チームは自らのリズムで試合を運び、勝ち抜いた。

その先陣を託されたのが、No.8吉川慎之助選手(日向高校3年)。2年連続で大会メンバーに選ばれた「コベルコカップを知る男」が、今年のキャプテンを務めた。

ボールを持てば真っ直ぐに前へ。強さも頼もしさも、そしてキャプテンシーもが、その存在感からにじみ出ていた。


写真中央が吉川キャプテン

吉川選手がラグビーを始めたのは小学2年の終わり頃。幼馴染の田中勝斗選手(大分東明高校3年)に誘われ、日向ラグビースクールで楕円球を握った。

中学は宮崎県の日向市立富島中学校へと進み、太陽生命カップ2022 第13回全国中学生ラグビーフットボール大会第1ブロック(中学の部)ではなんと準優勝を果たす。

そのメンバーたちがこぞって進学先に選んだのが、日向高校だった。

宮崎県で14大会連続32回もの全国高等学校ラグビーフットボール大会出場を誇る強豪・高鍋高校ではなく、あえて日向高校へと進むことを決意。

「みんなで高鍋を倒す」と腹を括った。

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しかし、高校入学時の部員数は3年生が1名に2年生が2名。そして自らの代・1年生は10名程度。単独で1チーム組める部員数はいなかった。

だからまず取り組んだのは『人づくり』と『人集め』。

次第に想いは伝播し、途中入部の選手たちも多く迎える。1学年下の代では6人の新入部員が入り、そして今年の1年生はなんと、13人も入部届を提出したという。

部員数は気付けば30名にまで増え、今では「質の良い練習ができています」と吉川キャプテンは胸を張った。

「ドラマ、あるっすよね。これであとは、花園に行くだけです」

吉川選手は、笑顔で目を輝かせる。

座右の銘は『勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし』。他競技のキャプテンシーを学ぶ中で目にしたその言葉に心惹かれ、自らの指針とする。

「迷う時、あるじゃないですか。そういう時には目指す方針をまっすぐにすることを意識しています。その中で調べているうちに出てきたのが、この言葉でした」

掴んだ日本一。だがこの日の勝利は、決して不思議の勝ちではない。

初めて会ったばかりのメンバー。5日間しか、ともにラグビーをしていない仲間と掴んだ日本一は「価値ある勝ちです」とはにかんだ。


日向高校では高校からラグビーを始める部員が多く、教え方にもノウハウがあった。だから今大会でもその経験を生かす。「初日から困ることなく、仲良くなることができました」

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