8月21日(木)に行われた、第79回 国民スポーツ大会 関東ブロック大会 少年男子の1回戦。
埼玉県は茨城県と対戦し、12-31で敗れた。
「本当に楽しかったです」
試合後、開口一番そう口にしたのは、今年のオール埼玉でキャプテンを務めた浅野優心選手(慶應志木3年)。最後まで笑顔で、活動を振り返った。
「本当にいろんな人がいて、みんな頼りになったし、やりやすかった。本当に楽しかったです」
他校の選手たちと過ごした、かけがえのない時間。そのすべてを、浅野キャプテンは“楽しい”という言葉で締めくくった。
オール埼玉のアタックテーマは「コンパクトに攻め、エリアゲームで勝負する」。
スタンドオフ・山本柊司選手(鷲宮3年)とフルバックの浅野キャプテンが、その中心を担った。
相手の配置を見極め、キックを使ってゲームを運び、相手を押し込む。ファーストトライもその流れから生まれた。
敵陣で蹴り上げたハイボールからペナルティを獲得。アタックを継続し、大外で待っていた11番・堀内久真選手(昌平3年)が見事に仕留めた。
勝負どころで意図通りにエリアを支配し、トライに繋げる。わずかな練習期間の中で、オール埼玉としてのアタックが、確かに形になった。
たとえ得点に結びつかなくとも、意味のある攻撃もあった。
12点を追う前半終了間際、ペナルティから敵陣深くでのラインアウトを選択すると、高い位置でボールを確保した。
そのままモールを組み、崩れればFWが体を当てる。トライライン目前で再びペナルティを得ると、浅野キャプテンが素早くクイックタップで仕掛けた。
最終的には押し切れず前半終了の笛が鳴ったが「いいよ、いいよ!」「大丈夫、帰ってこい!」とベンチから飛んだ声は、チームの温度を物語っていた。

中学時代は、オール栃木のキャプテン。高校では埼玉でキャプテンに就任した浅野選手。
県は変われど、任される理由は変わらない。その背中を見れば、誰もが納得するキャプテンだった。チームメイトも、スタッフも、誰もが一目置くリーダーシップ。
浅野キャプテンは言う。
「ここで一つのチームになれた経験は、本当に大きいです。これを自分のチームに持ち帰って、それぞれがレベルアップすることを楽しみにしています。でも対戦したら絶対に勝ちは譲りません!」
昌平、川越東、熊谷工業、本庄第一、熊谷、慶應志木、浦和、深谷、鷲宮。
全9校から集まった選手たちが戦った期間は、短かった。
秋に向けて、そして冬に向けて、これからはそれぞれの場所での闘いを続ける。
儚くて、熱くて、尊いひと夏。
笑顔とともに、浅野キャプテンはその時間を胸に刻んだ。
名は咲介(さすけ)――仲間を咲かせ、自らも咲いたオール埼玉での夏
「咲いている花を助けられる人間になるように」と名付けられた名は、咲介(さすけ)。
その名のとおり、オール埼玉でFWリーダー兼バイスキャプテンを務めた渡邊咲介選手(川越東3年)は、仲間が咲かせた花を支え、さらに大きく花開かせる存在となった。
“不安”を“自信”へと変えた力
対戦相手の茨城県代表は、茗溪学園の選手を中心に構成された強力なチーム。関東新人大会では、埼玉王者・昌平が茗溪学園に0-57で敗れている。そんな背景を知っているからこそ、当初はチーム内にも不安が渦巻いた。
「茨城県に対して、FWで何ができるか。難しいことはできないので、どれだけ自分たちのマインドを積み重ねて、1対1で勝てるか。それを考えてスタートしました」
大会直前に行った熊谷工業とのAD(アタック・ディフェンス練習)では、決して仕上がりの良い内容とは言えなかった。「本当に勝てるのか」と、不安を抱いた選手も少なくなかった。
だが、そこからチーム全員でのミーティングを重ね、個別にグラウンドに出て確認する時間も設けた。
渡邊選手は言う。
「僕たちに個々の力がないわけでは、全くなかった。一人ひとりの自信が足りなかったんです。だからやるべきことを明確にして、簡潔にしていきました」
仲間の不安に寄り添い、信じる力を取り戻させることに力を注いだ。
ジャージープレゼンテーションで誓ったこと
大会前夜。ジャージープレゼンテーションの場で、選手一人ひとりが「自分は何を背負っているのか」「なぜここにいるのか」を語った。
渡邊選手もまた、その場で自らに誓い、仲間に呼びかける。
「みんな、それぞれのチームの想いを懸けてやってきている。勝てる、ということを本当に狙わないと楽しくないし、思いっきりやれないぞ。そのために自分は、キャリーで相手を吹っ飛ばすので、みんなついてきてください」
それぞれの思いが言葉になった時、チームは一つの強い目標を共有した。
「埼玉はいま、全国に出てもなかなか勝てない状況です。花園に2校出場できることについても、いろんな声があったと思いますが、だからこそ『僕たちが立場を逆転させるぞ』という目標を、全員が共有できました」
この『立場を逆転させる』という言葉は、活動初期から小松広実監督(川口)が掲げたテーマだった。
しかし試合が始まれば、相手はやはり大きく、強く、速い。
「どうしたってくらってしまう瞬間はあります。でも、バックアップメンバーや、支えてくれている仲間の顔を見たら、そんな気持ちも吹っ飛びました」
渡邊選手はそう振り返る。
「埼玉で一番突破力のある選手になる」と自らに課し、ボールを持てばキャリーを繰り返す。その姿は、仲間に勇気を与え、相手には脅威となった。
「(キャプテンの浅野)優心が周りを見てくれるから、僕は絶対に自分のプレーでチームを前に出そうと思っていました」
いくつもの場面で体現された覚悟が、チームの推進力を生んだ。
夏の先へ
短い合宿でともに汗を流した仲間たちとは、ここから先はライバルになる。
だが渡邊選手は笑って言った。
「この数日間の経験は、これからもずっと記憶に残る。試合で目が合った時は、ワクワクすると思います。自分はキャリーが得意だから、思い切りぶつかりたい。あっちはバチバチのタックルで返してきてくれればいい。そんな関係で、川越東として花園の切符を掴み取りたいと思います」
咲いた花を支える存在でありながら、自らも大きく咲こうとする。仲間を思い、仲間と挑む渡邊選手の姿は、青春のひとつの形を鮮やかに示す。
「オール埼玉としての時間は、最初で最後の、本当に濃い時間でした」

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