『浦和工業』ラストゲームに、意地で繋いだ単独出場。「待ち望んだ1勝」と魂の音。埼玉県の花園予選が始まる|第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選 1回戦

第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会 埼玉県予選が幕を開けた。

9月7日(日)には県内2会場で1回戦が行われ、6チームが初陣を飾った。

Bシードも登場する2回戦は、9月21日(日)に県内3会場で行われる。

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1回戦 試合結果

【三郷工業技術高校グラウンド】

  • 三郷工業技術 12-22 西武台
  • 合同B 7-55 朝霞
  • 八潮南 8-64 草加東

【進修館高校グラウンド】

  • 城西川越 60-0 進修館
  • 合同D 82-12 合同A
  • 西武文理 10-19 松山
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城西川越 60-0 進修館

城西川越:紫ジャージー、進修館:白黒ジャージー

前半2分のファーストトライを皮切りに、60分間で計10トライを決めたのは城西川越。

ペナルティを得るとタップキックからスタートを切り、押し込む。ボールを持てば、自陣からでも一発で取り切る外への展開力を有した。

対する進修館も、敵陣での攻撃チャンスを何度も得た。10番・12番が何度もボールを蹴り込み、相手のミスを誘うシーンもあった。

だが結末に結び付けることが難しい。

最終スコア、60-0。

城西川越が2回戦へと勝ち進んだ。

「意地でも進修館の名で」こだわった単独出場

冬の新人戦は、合同チームの一員として戦った進修館高校。だが、この秋の花園予選だけは特別だった。

かつて全国大会に出場した行田工業高校の血を引くチームとして、『進修館』の名で挑みたいという強い思い。

梨本雄太監督は言う。

「意地でも単独で出よう、意地でも進修館の名で出ようと言っていました。先輩たちがつないでくれたジャージーを、僕たちの代で途絶えさせるわけにはいかなかった」

その決意は「とにかく仲間を集めよう」という合言葉となり、部員たちは校内で声をかけ合った。

呼びかけに応じ、途中入部の選手たちが加わり始めたのは春のこと。

7番の背番号を背負ったのは、ラグビー歴わずか1か月の3年生。ほかにも部活動を引退した後に編入してくれた仲間たちが増え、「ラグビー歴が半年程度」というメンバーが揃えば、単独チームとして出場できる人数を確保した。

横家陽向キャプテンは誇らしそうに話す。

「僕たちのチームは、プレイヤーとマネージャーを区切っていません。『3年生』という括りで頑張ってきました」

元々ラグビー部にいたオリジナル3年生は、わずか3人。ロックの横家キャプテンに、スクラムハーフの狩野稜太バイスキャプテン、そして女子マネージャー長。

その3人が中心となって、チームを支え続けた。

「下手くそな僕を、2人が支えてくれた。後輩のみんなも真面目についてきてくれました。だから続けることができました」(横家キャプテン)

「仲間がどんどん増えた。仲間に恵まれました」(狩野バイスキャプテン)

仲間に感謝の気持ちを表す2人。進修館がこの日見せたラグビーからは、3年生たちが仲間に愛情を返し続けたことが伝わってきた。

特に印象的だったのはスタンドオフの存在だ。

3月からラグビーを始めたばかりの2年生。以前はバレーボール部に所属していたが、自らの意思でラグビー部に転部してきたという。

「ラグビー歴半年でエースです。バレー部からわざわざ来てくれて、こんなに戦力になってくれた。僕は本当に誇りに思っています」

横家キャプテンは後輩を称えた。

彼が蹴り続けたハイボールやロングボールは、進修館のラグビースタイルを象徴するものとなった。

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勝利は遠くとも、輝きはあった

1勝を挙げることはできなかった。1トライも遠かった。それでも、進修館が表現した60分は、ストーリーに満ちた魅力的な時間だった。

後半も半ばを過ぎ、48点差をつけられた場面。自陣トライゾーンで組んだハドルの中で、横家キャプテンは声を張った。

「楽しんでやりきろう!」

相手の独走トライにも最後まで走り切ったのは、ナンバーエイトと右ウイング。

トライラインを背負ったディフェンスでは体を張り、相手のフィジカル攻撃をしのいだ。その喜びを雄叫びとして表す者、仲間の背を叩く者もいた。

たった3人の3年生が中心となり、最後まで戦い抜いた1年間。

横家キャプテンには、後輩たちへ伝えたい想いがある。

「これから新入生が入るまでは合同チームになってしまうかもしれません。でも、僕たちがやってきたように仲間集めを怠らず、自分たちの良いところを未経験の人たちに見せて、ラグビー部に入りたくなるようなチームをつくってほしいです」

小さな輪から広がった大きな絆。

進修館高校ラグビー部が示したのは、勝敗だけでは語れない「つなぐ力」だった。

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個からチームへ|城西川越

並木大典監督は言う。「今年の3年生は、史上最も『我』が強いチーム」だと。

キャプテンのCTB積悠真選手も、その葛藤を率直に語った。

「ラグビーしてるのかな?というくらいバラバラでした。誰かがミスしたら責め合う。自分たちの“我”が強すぎたんです」

だがそれは裏を返せば、それぞれが「勝ちたい」という強い思いを抱いていた証でもあった。

勝つために何をしたいか、その方向性があまりにバラバラだったからこそ、練習中の小さなミスさえ見逃せなかったのだ。

流れを変えたのは夏、格上の大学生と合同練習をしたときのことだった。

圧倒的なフィジカル差に押し込まれ、体格差を突きつけられたときに、選手たちは気付く。

「個の力だけでは勝てない」と。

だから「勝ちたいがための個の強さ」から「勝利のために何を優先するか」へ。

選手たちの意識が、『個を貫くのではなく、チームの勝利を選ぶ』という方向に変わり始めた。

積キャプテンがラグビーを続けてきた理由もまた、シンプルで熱い。

「どの競技よりもフィールドに立つ選手数が多く、一番迫力があって、一番熱くなれるのがラグビー。『自己犠牲』という言葉が最も表されているのがラグビーだと思います。他のスポーツにはない迫力に惹かれました」

その熱を仲間に伝え、背中でチームを引っ張ってきた。

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そして迎えた花園予選1回戦。城西川越は見事な完封勝利を収めた。

その姿に並木監督は「試合を観ていたら泣けてきました」と目を細める。

かつては強すぎる“個”によってぶつかり合っていた選手たちが、いまやひとつの目標へとまとまり、チームとして輝きを放つ。

個々の力が強いからこそ、まとまった時にそのエネルギーは大きく熱く、チームを包み込んだ。

積キャプテンは「あえて挙げるならば」と前置きし、チームの中心に据える言葉を『チーム一丸』と語った。

「チームで戦うことを目標に掲げずとも、チームとして戦えるようになりました。細かなミスをなくして戦いたいです」

次に待つのは、2週間後の強豪・熊谷戦。

個からチームへと変化を遂げた城西川越が、挑む。

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