【夏物語】この夏、僕たちは強くなる ~<前編>東福岡はどのチームでも東福岡

ラグビーをする高校生にとって、夏の菅平高原は“聖地”とも言える場所だ。

しかし部員数が100名を超える大所帯のチームにとっては、宿泊施設の部屋数の関係から、全員で菅平に足を運ぶことが容易ではない。

部員140名を超える東福岡も、その1校。これまでは例年、選抜された55名だけがお盆前後に菅平へと上がっていた。

「3年間で一度も菅平に上がらない選手がいる」

その事実を知った宿舎『ばんぶーびれっぢ』の責任者は、動いた。

この地を、聖地・菅平を経験させてあげたいという強い思いから、福岡まで足を運び、監督らと直接打ち合わせを重ねた。そうして宿泊日程を調整すれば、部員を2部隊に分けて菅平合宿を行えることが決定した。

もっとも、宿が確保できても課題は残る。「なんと言ったって、菅平は対戦相手を探すことが難しい。どの学校も、ほぼほぼスケジュールが固定している」と語るのは藤田雄一郎監督。

そこでこれまで築いた人脈を頼りに声をかけ、最終的に11チームとの新たな対戦が実現した。「試合機会を与えてもらえることが有難い」と、藤田監督は繰り返し口にする。

宿る誇り

こうして今年から、全12日間の菅平合宿が始まった。前期は70名、後期は55名。ケガ人を除いた2・3年生全員と、選抜された1年生が参加した。

前期組の多くは、これまでなら菅平に立つことが叶わなかった選手たちだ。ファーストジャージーまでの道のりが遠い選手も多い。

それでも「東福岡として菅平で試合をする」ことに意味があった。

宿舎も、グラウンドも、先輩たちが伝統を刻んできた場所。その舞台でPhoenixのロゴが入ったジャージーを着て走るということ。

その環境が誇りを呼び覚まし、さらには藤田監督が全練習・全試合を見届ける毎日が、選手たちを奮い立たせた。

フェニックス・スタンダードの浸透

合宿の柱となったのは『Phoenix Standard Training(フェニックス・スタンダード・トレーニング)』。

スキルの習得、規律ある行動、そして日常生活にまで及ぶ“東福岡としての基準”を徹底することだった。

「まずは育成」と藤田監督は強調する。

後期組と同じ練習をしていては差が縮まらないからこそ、朝6時20分からのスキルセッションも導入した。

合宿が進むにつれて、グラウンド内外での振る舞いにも「東福岡らしさ」が増したことは明らかだった。

「だんだんフェニックススタンダードになってきてるやん」

とある日の練習試合前、一列にされたボールを見て藤田監督がかけた言葉が象徴的だった。

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東福岡は、どのチームでも東福岡

8月5日に行われた東洋大牛久(茨城県)との練習試合でのこと。相手校は「東福岡と戦うから」と、ファーストジャージーを着て臨んできた。

藤田監督はその光景を見て、選手たちに伝える。

「だからそれだけ、東福岡は東福岡。Aチームでも、BでもCでもDチームでも、東福岡なんだ」

前期組を率いたのは、3人の3年生たちだった。

いずれも福岡県大会やサニックスワールドユースでファーストジャージーに袖を通した経験を持つが、今回はAチームではなく、前期組としての参加に悔しさを隠さなかった。

「同じポジションの後輩に負けたことが悔しい」と語るのは、SO/CTBの馬場光大選手。「この菅平でやるしかない、という気持ちです」と答えたのは、CTBの小田修道選手。プレーでも言葉でもチームを引っ張った。

SH/SOを務める小林由征選手も「Aチームとはプレー面で差が出ている現実は理解している。だからこそ日常生活では少なくともAチーム以上に規律正しくありたい」と言った。

小事大事。東福岡に根付くフィロソフィーが、指針となった。

藤田監督は「1を言ったら10を理解してくれる人たちをリーダーに選んだ」と信頼を寄せる。

3年目の夏、監督の目に自らのプレーを届けられる時間が限られているからこそ、選手たち自身が一瞬一瞬に懸ける思いは強かった。

「僕たちがAチームじゃないと知りながらも、ファーストジャージーを着て東福岡を倒しに来た学校もあった。それを跳ね返す気持ちが大切」と、小田選手は学びを振り返った。

「チャンス」に懸けて

8月6日午前、本庄第一(埼玉県)との一戦は監督同士が同学年という縁で実現した。

出場したのは全員が3年生。「チャンス」と告げられて臨んだ試合だったが、結果は4トライ差で敗れた。

グリーン(東福岡のファーストジャージーのこと)を着た経験のある者として、チームを引き上げる責任がある。同時に、一戦ごとに自らの選考もかかっている。そのはざまで揺れながら、リーダー陣は口をそろえた。

「悔しいです」

それでも午後の再戦では、勝利を収めた。課題を理解し、学び、修正する小さなサイクルの連続。小さな手応えが、次への力となった。

「自分たちもフェニックス。東福岡としてのプライドを持って、しっかりやっていきたい」

菅平の地で、気持ちを新たにした選手たち。

もう一度チャンスを取り戻そうと足掻いた夏に、誓う。

『Phoenix Standard Training. あたりまえを見直す』

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