【夏物語】この夏、僕たちは強くなる ~神様が与えてくれた試練|報徳学園

全国大会の常連として長い歴史を誇る報徳学園高校ラグビー部。花園では幾度も名勝負を繰り広げ、多くのリーグワン選手を輩出してきた名門校だ。

その伝統を受け継ぐ今季のチームが掲げたスローガンは『モンスター』。一人ひとりの個性をぶつけ合い、重なり合うことで相手を圧倒する存在を目指している。

「僕たちの代は個性的な選手が多いんです。1人ひとりが自分の強みを存分に発揮して、モンスターのように相手を圧倒する。そして個性が合わさった時には、チームとして大きなモンスターになろう、という意味が込められています」

そう説明したのは、柔らかな表情が優しいナンバーエイトの山口鉄心キャプテン。

仲間の個性を尋ねれば「ほんまに何も考えず、ずっとニッコニコしているヤツも。すごいわがままなヤツもおります」と笑った。

春の悔しさがくれた教訓

そんな報徳学園が今年の春に味わったのは、苦い敗戦だった。

第76回近畿高等学校ラグビーフットボール大会で関西学院、常翔学園に敗れ、第26回全国高等学校選抜ラグビーフットボール大会への出場を逃した。

以降、フォワード陣は基礎から鍛え直した。「ほんまにしんどい練習をしてきました。スクラムも、ラインアウトも全部。春は、とんでもないぐらいキツかった」と山口キャプテンは繰り返す。

春休みの1ヵ月間、毎日続いたのは2部練習。「しんどすぎて、人生で初めて『早く学校始まってほしい』と思った」ほどだったと苦笑する。

下を向きかけた日も、悩む日もあったが、キャプテンとして「やるしかない」と気持ちを奮い立たせた。

ピンチを力に変えた開き直り

6月に行われた兵庫県民スポーツ大会は、報徳学園にとって大きな転機となった。

春に敗れた関西学院との再戦を目前に、なんと主力選手が次々と負傷。2週間前にはCTB村田一眞選手が、5日前にはゲームリーダーのSH日比野陽穂選手が、そして3日前には山口キャプテンまでもが怪我を負った。

絶体絶命の大ピンチ。

だが「そうなった時に、逆に開き直れた」と山口キャプテンは言う。

「『ここまできたら、みんなおらんけどやるしかない』とチームが開き直ったんです。そしたら試合にも勝てた。ちょっと、なんというか・・・神様が与えてくれた試練、じゃないですけど。そういう側面があったのかな、と思います。ある意味、良い運が来たな、って」

ピンチをチャンスに変えられる時の報徳学園は強い。逆境で一つになったことが後半の逆転劇を生み、10-7で勝利した。

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ホウトクらしさ

夏を迎え、春に積み上げた努力はようやく形となり始めた。練習試合を行えば、様々な局面で成長が表れる。

「頑張ってきて良かった」と山口キャプテンは手応えを口にした。

「チームとしてのパワーはあると思います。負けるときはしっかり負けて、課題の見える負け方、納得のできる負け方をしてきました。まだまだやな、とは思いますが、戦える部分も見えてきたので。多少の自信も得られたなと思います」

報徳学園の強さは「ホウトクらしさ」にある。

心技体を整えること。そして、楽しむこと。“はっちゃける”ことも、その一部だ。

「泉さん(泉光太郎ヘッドコーチ)がそういうスタンスでいてくれるから、僕たちは本当に勇気づけられています。監督・コーチ陣のおかげで、報徳らしい雰囲気があると思う。締める時には締めて、時には楽しむ、はっちゃけるのも報徳らしさの一つだと感じます」

夏の誓い

1年時から公式戦出場経験を有するスピードランナー・FB長一輝選手は2月の近畿大会で負傷し、未だ長期離脱中だ。

少し離れた場所に座る仲間を見つめながら、山口キャプテンは信頼を言葉にした。

「ケガなんて、しょうがないこと。秋、関西学院に勝ってアイツを花園に連れて行けたら、アイツが花園で活躍してくれると信じています」

花園予選まで残された時間は短い。だから、苦しい時こそ前を向こうではないか。

「しんどい時こそ、いかにはっちゃけられるか。しんどい時こそ、前を向いてやれるかどうかが、今年のチームがもう一個上にいけるかどうかの鍵だと思っています。夏から秋にかけて、強いチームはさらに伸びていく。僕たちもここからが勝負。まだまだ成長できるチャンスはいろんな所にあるし、もっと強くなれる。冬、花園で、報徳らしい“モンスター”の姿を必ず見せます」

仲間とともに笑い、走り抜く。

報徳学園の、夏の誓い。

『はっちゃける』

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