廃部。感謝。友へ、そして両親へ。|鷲宮112-0合同C|第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選 2回戦

第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会 埼玉県予選が幕を開けた。

9月21日(日)には県内3会場で2回戦が行われ、12チームが勝ち進んだ。

Aシードも登場する準々決勝は、9月28日(日)に熊谷ラグビー場Cグラウンドならびに西グラウンドで行われる。

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鷲宮112-0合同C

鷲宮:紺ジャージー、合同C:黒グレージャージー
合同Cは県内合同チーム最多となる5校(川越工業、朝霞西、ふじみ野、狭山工業、城北埼玉)が集まって組まれたチームだ。
彼らは、単独チームに比べ、試合に出る15人の連携や個々の技術では劣る部分があるかもしれない。しかし、この会場内で一番の活気を持っていた。

試合は終始、鷲宮高校が試合の主導権を握った。
試合序盤から敵陣に攻め込んだ鷲宮がトライを重ね、前半を59-0で終える。後半も攻撃を緩めることなく合同Cを無得点に抑え、最終スコア119-0で鷲宮が勝利した。
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初戦の緊張もはねのけ完封勝利|鷲宮高校

「フォワードもバックスも個の力を活かして、自分たち一人ひとりが前に持っていけるところが強みです」

主将のCTB新井勇蔵選手は、鷲宮の強みについて話してくれた。

試合は、立ち上がりから鷲宮が攻め込む。先制トライを皮切りに連続トライを決め、合同Cから前半で9本のトライを取った。

この初戦に向けてフォワードはモールをはじめとしたセットプレーやフィジカル面を強化し、バックスは一つひとつのサインプレーの精度や細かなミスをなくすことを意識してきたという。

負けたら終わりの花園予選。

両校ともに初戦ということもあり、準備を重ねてきた鷲宮にも緊張が。

それに対して新井主将は「自分たちのワンプレー、ワンプレーを集中してやっていこう」と意識的に声をかけ、チームをまとめていた。

新井主将に続くように、PR宮澤玄選手もチームを鼓舞し、一試合を通して安定した試合運びを見せていた。

現在の課題は「ターンオーバー後のアタック」「ディフェンス時の視野の狭さ」の2点。

最後に新井主将は、次戦に向けて「今日できたことをさらに伸ばし、できなかったことは準々決勝までの1週間で準備して、慶應志木と戦いたい」と語った。

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ラグビーを楽しむ|合同C

合同Cのチームキャプテンを務めたのは、朝霞西高校のNO.8鈴木夏選手。

彼が所属する朝霞西高校ラグビー部は今年、廃部となる。下級生を迎え入れることなく3人の3年生で合同チームを組み、この試合を戦った。

試合は無得点の0-119で大敗を喫した。しかし、試合を終えた選手たちが口にしたのは、マイナスな言葉ばかりではなかった。

「今年で廃部でも、合同チームという一つのチームで格上相手に自分の全力をぶつけられたからよかった」

こう振り返った鈴木主将は、入部した当初の体重は50kg台で、とても怖がりだったという。それでも仲間と練習を重ねたことで、現在は体重を20kg増やし、ラグビーに対する恐怖心も徐々になくなった。

鈴木主将はラグビーをやってきた3年間を「得るものが大きかった3年間だった」と言い切った。それでも具体的に、何とは言い表せなかった『得たもの』。

だが、泥だらけのユニフォームで仲間と笑い合いながらインタビューに答えるその空間そのものが、その『何か』を表していた。

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空高く上がった楕円球

高校に入学し、初めて楕円球に触ったのは鈴木主将だけではない。

「最初はラグビーについて何も知らないし、何もわからなかった」

そう話したのは、FB鈴木裕斗選手。同じく朝霞西高校に通う3年生である。

しかし真面目に楕円球と向き合い、できることも増えてきたと自信をもって話す鈴木裕斗選手は、今日のプレーを振り返って「後半は思うように体が動けず、負けて悔しい。ですけど、自分のやれることはやりきった」と話した。

試合中、何度もトライを決められるも、選手たちは「一本取るぞ!」「まだまだいくぞ!」と闘志を絶やさない。

鈴木裕斗選手が真面目に向き合い、蹴り上げた楕円球は、空高く上がり、何度も仲間を駆り立てた。

2人の仲間と、両親へ

高校からラグビーを始めた選手たちのスタートラインは、みな同じだ。

鈴木夏主将に誘われラグビー部に入ったというFL森田和睦選手も、初めは「自分が本当にラグビーをできるのか心配だった」という。

しかし、試合後には「ラグビーが楽しくなってきた」と話してくれた。

朝霞西の平日練習は3人。少ない3人での練習であっても、基礎からランプレーまで行った。

単独チームに比べたら、実践的ではない練習だったかもしれない。だが「練習中に声を出して、今日も一緒に戦ってくれた(鈴木)夏と(鈴木)裕斗には一番の感謝を伝えたい」と言った。

そして「2人の次に感謝しているのは、親です」と断言する。

父はラグビー経験者で、ラグビーについてわからないところやルールについて教えてもらうなど、たくさんのサポートをしてもらった。また母にはスパイクや遠征費などを出してもらい、今ラグビーができていると感謝する。

長いようで短い高校ラグビーの時間で生まれた、2人の仲間と両親への感謝。

その気持ちを改めて口にした言葉は、試合後の和やかな雰囲気に合っていた。

親の気持ち

狭山工業高校の3年生は、WTB小川駿太選手とPR宮周哉選手の2人。

部員が少なく、2人の顧問の先生と計4人で練習し、ぎりぎり2対2ができる環境の時もあったという。

鷲宮との一戦を振り返れば「点差はとても開いてしまい、ノックフォワードなどのミスはあったけれど、みんなタックルにも入り、最初から最後まで気持ちでは負けずに戦っていた」(小川選手)、「スポーツの醍醐味である『楽しむ』ことを忘れずに最後までプレーできたと思います。合同Cというチームでプレーできたことはすごく嬉しい」(宮選手)と優しく語った。

小川選手は、試合当日の朝、父から1通のLINEを受け取った。そこには「僕がラグビーを辞めたいと感じていたことを、父は知っていたということが書かれていました」。

そんな思いを抱えながらも、今日まで支えてくれた父への感謝、そして毎朝早く起きて弁当を作ってくれた母への感謝を、しっかりと教えてくれた。

「小川君がいたからこそ、ラグビーを一生懸命できた」

合同チームであるがゆえに、関わる人は広がる。たくさん感謝する人がいる中でも、宮選手は相棒・小川選手の名を一番にあげた。

「小川くんがいたからこそ、ラグビーを一生懸命できた」

宮選手のプレーには派手さは少ないものの、後輩たちにラグビーの楽しさを感じさせる、先輩としての背中を見せるものだった。

2人は、高校内で専攻する科目が分かれており、授業では関わることが少ない。

それでも部活という短い時間の中で、ともにラグビーに向き合い、戦術やトレーニングなどに費やした時間が、かけがえのない3年間を作り上げた。

執筆者
宮田脩平(みやたしゅうへい)
生年月日:2005年8月8日
出身校:埼玉県立川口北高校→大東文化大学
所属:大東文化大学スポーツ大東編集部(ラグビー担当)
ラグビー歴:高校から始め、3年時には主将を務める。現役時のポジションはスタンドオフ
好きなラグビー選手:池戸 将太郎(明治→東芝)
特技:スキー
趣味:ツーリング
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