【準々決勝】生まれ変わっても、ラグビーがしたい。|第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選

熊谷工業 60-0 川口

熊谷工業:青ジャージー、川口:紫ジャージー

熊谷工業

前半はバックスがキックを織り交ぜて攻撃を展開し、フォワードがモールで押し込む。多彩な形で試合を動かした熊谷工業。

しかし後半は相手の勢いに押される場面もあった、と橋本大介監督は振り返った。

「夏に取り組んできたアタックは、形になってきました。ただここ数週間はディフェンスを強化してきたんですが、新しいことに挑戦すると、それまで積み上げてきたものを忘れてしまうこともあるのが苦しいところです」

右足を踏み込み、左足を前に進めたら、右足の土壌が揺らいでしまう現状に、苦しい胸の内を明かした。

だが、進む道に迷うことはない。

「工業らしさはやっぱり“当たり”にある。接点を避けていては工業じゃない。バランスを取りつつも、フォワード戦でしっかり勝負していきたい」と、10月に歩む方向を口にする。

さらに息づくのは、熊谷工業伝統の“ハーフ育成”。

2年連続で高校からラグビーを始めた選手がスクラムハーフを務めているが「厳しい要求に応えてくれる」と信頼を寄せた。

またこの日は正フルバック・田中空選手が、公務員試験のため不在。

「アタックの軸であり、メインキッカーでもあるソラがいない中で、若い選手たちに緊張感を持たせられたのは収穫」と語り、代役を担った1年生・林篤希選手の成長にも期待を寄せた。

いざ、2年連続で決勝の舞台へ。

準決勝の相手は慶應志木。橋本監督の言葉どおり『工業らしい当たり』で、道を切り拓けるか。

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鷲宮 14-40 慶應志木

鷲宮:紺ジャージー、慶應志木:黒黄ジャージー

慶應志木

前半は狙い通りの展開でテンポよくボールを動かし、得点につなげた慶應志木。

しかし前半終盤から後半にかけては流れを失った。

「相手スタンドオフの山本柊司にエリアを取られ、ギャップを突かれました。鷲宮はバックスのパスが巧みで、そこを対策しようと準備していましたが、それでもディフェンスのセットが遅れたり、声が足りなかったり。試合中に修正できなかったことが悔やまれます」

勝利の後も、FB浅野優心キャプテンは自らの責任と課題を真っ直ぐに見据えていた。

理由があった。

前半を28点リードで折り返し、このまま突き放すかに思われた後半立ち上がり。

浅野キャプテン自身のノックフォワードが、自陣での苦しい時間を招いてしまった。

「立ち上がりに僕のミス。今日は自分が思い切りターンオーバーを狙えるような守備システムでもなかったので、チームを信じるしかなかったです。自分がもう少し流れを変えたかった。取り返さなきゃという意識も強くありました」と振り返る。

それでも、この経験を次につなげる覚悟は揺るがない。

「いまのままでは春と同じ。熊谷工業を相手には勝てないと思うので、これからの1か月はラグビーだけに向き合う時間にしていかなきゃいけない、と思います。自分たちの課題を一つひとつ修正していきます」

言葉に込めたのは、自らを奮い立たせ、チームを前へと導く決意だった。

鷲宮

「僅差で勝つ、というのが今日のゲームプラン。ラックを作るのではなく、どんどん裏でボールを回してポイントを作らない、というラグビーをここ1週間準備してきました」と話したのは、司令塔を務めたSO山本柊司選手。

それでも「この1週間で仕上げてきた“ノーラックで展開するラグビー”を試合で出し切れなかった。自陣でのペナルティが多かった」ことに悔しさを滲ませた。

しかし鷲宮のラグビーは、観客に驚きと喜びをもたらした。

想像していた軌道ではない所で繋がっていくボール。丁寧に、こぼすことなく、だが意志ある道を進みながら前進する様に、見る者は興奮を覚えた。

駒井正憲監督は、その戦術について「弱いチームだからこそ接点を作らないようにボールを動かしていかなきゃいけない」と明かす。

シード校・慶應志木を相手に勝ち筋を模索する中で、この1週間で形にしたスタイルだった。

だが「最後はなんとなく勢い任せになってしまった。勇蔵(CTB新井キャプテン)もNo.8戸田(育希)も抜けるんだけど、孤立してしまう。春のデジャヴのようでした。外までは回るんだけど、最後に気の利いたプレイヤーが数人足りない。そこが県立高校の厳しさ」と、高校でラグビーを始める選手が多い環境の難しさを口にした。

山本選手はサッカー出身。高校入学後、駒井監督の誘いでラグビーの世界に飛び込んだ。

最初は戸惑いも多かったが、仲間と切磋琢磨する時間は「最高に面白い」と思えるほど充実していた。

そして今年、ラグビー歴わずか2年半でオール埼玉の先発スタンドオフを勝ち取るまでに成長。

「駒井先生の指導でここまで来られました。自分の成長ももちろんですが、先生のアドバイスのおかげで今の自分があります。感謝しかないです」と言葉を重ねる。

チームの司令塔として、まずは自ら前に出ること。ボールを持った時の第一選択肢はボールキャリー。

その基礎を授けてくれたのは、かつて同じポジションを務め、高校日本代表にまで上り詰めた師・駒井監督だった。

「仲間と一緒に辛いことも乗り越えてきて、やり終えた後の達成感がすごく好き。ラグビーに出会えてよかったです」

高校卒業後も、大学でラグビーを続ける予定だ。

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浦和 24-14 川越

浦和:紺ジャージー、川越:緑ジャージー
県立高校、男子校、進学校。
共通点ばかりの2チームが交えた一戦は、バックススタンドが埋まるほどの観客が詰めかけた。
試合はゲーム終盤までもつれたが、最後にトライを決めた浦和がBシードの意地をみせた。

浦和

2回戦を24-22の僅差で制した浦和。

宇野大樹キャプテンは「この1週間はディフェンスを中心に練習してきました」と振り返る。

勝って兜の緒を締めよ。そんな緊張感に包まれた1週間だったのかと思えば、実際は少し違ったそうだ。

「『あの試合を乗り越えたんだから、自分たちはやれる』という空気がチームにはありました」

チームの成長を感じさせる言葉だった。

勢いままに、準決勝へと駒を進めたが、しかし満足には程遠い。

「今日も取れる場面で決め切れなかったり、止められるはずのところで止めきれなかったり。我慢しきれずに相手ボールとなり、ピンチを招く場面もありました。この1ヵ月で細部を突き詰めて修正していきたいです」

課題の修正を誓う。

川越

昨年は同会場で流した、歓喜の涙。

そして今年は、悔し涙に変わった。

川越は10点及ばず、現行チームの物語に幕を下ろした。

最後まで川越らしいラグビーを貫いた。

ボールを持った人が、しっかりと前に出る。その意志を一足に乗せる姿に、日頃の鍛錬を感じさせた。

「バックスで仕掛けながらパスを回すことを全員で意識していました」と言葉にしたのは、LO谷本幹太キャプテン。仲間と積み上げた時間を思い返すと、声が震えた。

「僕たちは毎日、プレッシャー下での練習を重ねてきました。夏休み中も誰1人手を抜かず、下級生主体のBチームが本気でディフェンスを仕掛けてくれた。その頑張りがあったからAチームの3年生は成長できました。春からの成長は、後輩たちのおかげです」

部員の多くは高校からラグビーを始めた選手たち。けれど、その事実は弱さではなく、強さの証に変わった。

試合後しばらくの間、生徒たちの背中を支えた柳澤裕司監督は、輪から離れると「浦高が素晴らしかった」とまずは相手を称えた。

その上で「接点でもモールでも『お株を奪う』つもりで準備してきた」と語る。

特別な仕掛けも用意した。

トライラインに迫れば、県内の試合では一度も見せたことのないフィールドラインアウトを解禁。

後半終盤、5点差に迫った2本目のトライも、変則モールから取り切った。ジャンパーがキャッチしたボールをそのまま後方へとつなぎ、ずらした位置でモールを組んで押し込む執念の一手だった。

考え得る策をすべて尽くして、それでも届かなかった。

だから選手たちは、思いっきり涙をこぼした。

今年のチームは主力に2年生が多く、先発15人のうち5人が下級生。控えには1年生の名前も並び、全員で力をつけてきた。

だから涙で腫れた瞳の奥に、誇りと自信を宿した谷本キャプテンは、その思いを後輩たちへと託す。

「後輩たちには、この悔しさを超えてほしい。僕たちを追い越してほしいです。悔いは残りますが、後輩たちには信頼しかありません。来年は必ずやってくれる、という安心感があります」

高校からラグビーを始めた谷本キャプテン。

「中学までは引っ込み思案でしたが、ラグビーを始めてからは自分を前に出せるようになった。人前に立つ力も、仲間と話す力も与えてくれた。仲間との絆を心から実感できる、ラグビーは本当に素晴らしいスポーツです」と言った。

心に残る言葉は『One Team』。

「3年間で何度もOne Teamを感じました。ラグビーが大好きになりました」と、笑顔で語った。

柳澤監督は、そんな谷本キャプテンと共に過ごした日々に思いを馳せる。

「毎日の成長を見ることが楽しみだった。毎日、学校に行くことが楽しくなりました。彼と共にラグビーできたことは幸せです」

涙が、歴史へと変わった。

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所沢北 13-87 川越東

所沢北:エンジジャージー、川越東:紺ジャージー

川越東

「夏は試合を重ねることでフィットネスを鍛え、実戦の中でアタックとセットプレーを磨いてきました」と語ったのは、望月雅之監督。

大会初戦を終え、チームの歩みを振り返った。

成長した選手として名を挙げたのは、フォワードを支えるPR竹山暖和選手(2年生)。学校史上初めてU17関東ブロック代表に選ばれ、全国の強豪を相手に堂々と戦い抜いた夏を経験した。

その後に行われた菅平合宿でも「疲れを見せず、試合もフル出場を続けてくれた。合宿MVP級の働きをしていた」と称賛した。

他にも体重100㎏を超える選手がケガから復帰し、下級生の台頭も著しい。チーム全体に勢いが宿ってきた。

「フォワード陣はケガ人が出ても誰かがカバーできるようになってきた。上級生と下級生がバランス良くかみ合い始めています」と望月監督。

また第99回大会で主将を務めた佐藤颯亮氏がコーチとしてチームに戻ってきたことも、現役選手には大きな刺激となっている。

「彼は決勝で浦和に敗れた時のナンバーエイト。準決勝の相手は浦和です。だからこそ、『その時の経験を後輩に伝えてほしい』と話しています」

積み重ねてきた歴史が、一本の太い幹となった川越東。

勝負の11月へと向かう。

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所沢北

3年生にとっては、負ければ引退が決まる花園予選。

勝敗の行方は厳しいものだったが、その戦いに1年間の全てを込めた。

「普通にやっても、Aシードの川越東には勝てない。だから全員で腹を括りました」

所沢北が選んだのは、奇策だった。

ボールを持てば、とにかくフォワードが体をぶつける。ラックからスクラムハーフが捌くことはせず、別のフォワードがボールを拾い上げ、その隣に次のラックをつくった。

それはトライライン目前でも、敵陣22メートル内でもない。どのエリアであっても、ボールを死守することに徹した。

一見すれば無謀とも思えるプラン。しかし左プロップの堀口拓海キャプテンは、その狙いをこう語る。

「前半はどうにか耐えてロースコアに持ち込み、後半は仕掛けを増やしてモールなどで取り切ろうというプランでした。自分たちは新チームの頃からフォワードを主体にラグビーを作ってきた。だから最後の花園予選、集大成の舞台だからこそ『フォワードを中心に据えよう』と、3年生で話し合って決めました」

フォワード主体の戦法は、ひとり一人の覚悟を前提にしなければ成立しない。

「相手は格上。何かを仕掛けなければ勝てない」と、試合のおよそ5日前に腹を括った。

もちろんリスクも伴った。ラックを重ねるほどターンオーバーの可能性は高まる。

事実「それが自分たちの弱みだった」と堀口キャプテンは認める。

それでもあえて選び抜き、たどり着いたオンリーワンの戦い方。

「この1年間いろんなことをやってきたけど、やっぱり最後はここに戻ってくるんだな、って。こういうチームなんだな、って。マイナスなイメージではなく、ポジティブに『俺らのチームはこういうチームだ!』という軸が最後までブレずにできたことは、とても良かったと思います」

堀口選手の入学当初の体重は73kg。毎日の食事と練習を重ねることで、100kgを超えるまでになった。

「とにかく食べました。朝1合、昼2合、夜3合。1日に6合を食べ続けました。練習後に『1合おにぎり』を作ってくれるマネージャーの支えもあって、自分の体が変わり、プレーの幅も広がった」という。

キャプテンとしての責任もまた、堀口選手を強くした。

小さなミスが出れば声を掛け、練習から試合まで「自分が前に立たなければ」という思いで動いた。時に厳しい言葉をかけることもあったが、それは仲間を信じていたから。「最後まで一緒に戦ってくれる仲間に恵まれました」と語る堀口選手の表情には、誇らしさがにじんだ。

「ラグビーはスポーツの中で一番熱いものだと思います。生まれ変わっても、またラグビーがやりたい。これだけ熱いスポーツだと、将来子どもにもやらせたいという思いも生まれるぐらいです(笑)本当にラグビーが好きだな、って」

勝ったことも、負けたことも。何より、ラグビーを大好きな仲間と青春を楕円球に託した高校3年間を。

一点の曇りもなく、ラグビーに打ち込んだ3年間に誇りを持った。

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