9月13日に幕を開けた、関東大学ラグビー 対抗戦Aグループ。
11月2日(日)、秩父宮ラグビー場では慶應義塾大学と明治大学の伝統の一戦が行われ、22対24で明治大学が接戦を制した。
ロスタイムの悲劇
明治大学の2点リードで迎えた、試合最終盤。
「ロスタイムは2分」とのアナウンスが会場に流れてから、さらに4分近くが経過した頃のことだった。
慶應義塾大学がポゼッションを保持し、逆転を狙って最後の攻撃を仕掛ける。後半43分。もはやキックで陣地を取ることはできない。
慶應義塾大学の背番号10を担った小林祐貴選手はその時のゲームメイクについて「フォワードでポゼッションを取るというよりも、ボールを振ってバックスで繋ぎ、逆サイドもうまく使いながらトライを狙っていました」と語る。
言葉通り、細かくパスを繋ぎながら敵陣へと入った。

すると、後半43分55秒。
ラックの後方に陣取った12番・今野椋平キャプテンがボールを手にすると、キックを蹴り上げた。
追いかける側の慶應義塾。FL申驥世選手は、その時の状況をこう振り返る。
「(今野キャプテンが)レフリーに『あと何秒ですか』と何度も聞いていたので、おかしいなとは思っていました。でも最後は、後ろに立っていたのでドロップゴールを狙うのかと思って・・・」
しかし、今野キャプテンが蹴った方向はポールではなく、タッチライン方向だった。
会場はどよめきに包まれ、ざわついた空気が流れる。
そして直後、試合終了のホイッスルが鳴り響くと、その瞬間に状況を理解した今野キャプテンは頭を抱えた。

「勝っていると思っていた」悔恨の告白
試合後の記者会見。今野キャプテンは言葉を絞り出すように語った。
「自分が熱くなって、勝っていると思いゲームを進めていました。レフリーにノータイムとか聞いてコミュニケーションは取っていたのですが、熱くなってしまい・・・一番冷静にならなければならない自分が、最後本当に大事なジャッジをしてしまったというのは、僕だけの責任です」


12-19で迎えた後半14分。2点差に迫るトライを決めたのは今野キャプテンだった。なおその後のコンバージョンゴールをSO小林選手が沈め、19-19の同点に
あの瞬間に生まれた悔しさを、未来の正解へと変えるために。慶應義塾大学は負けられぬ対抗戦終盤戦へと向かう。

試合後コメント
慶應義塾大学
今野椋平キャプテン
チームとしてプランをしっかり遂行でき、選手全員が個々の役割を発揮してくれた試合だと思います。
自分自身、熱くなって周りを見ることができず、最後は判断ミスをしてしまったので、個人の僕だけの責任。他の選手全員、ベストパフォーマンスをしてくれていたと思います。
青貫浩之監督
慶明戦100回記念大会ということで、協会の方々はじめ多くの方に協力を頂きまして、100回を迎えられたこと御礼申し上げます。
本日の試合につきましては、元々準備していたプラン通りにほとんどの時間上手くいったかなと思っています。明治大学さんとは、2カ月ほど前にジュニア戦で80点取られ、C戦でも80点取られました。そのチームに対して2か月間選手全員が努力して、成長してくれてここまでやってくれて、今日はベストパフォーマンスだったと思います。
選手全員を讃えたいと思います。
ーー最後のプレーについて、監督はどのように感じましたか?
まず、対抗戦は色々なことが起こり得ると常に選手には言っています。想定していないこと、色々なこと。
今日のシュチュエーションは、私も現役中逆のこともあったので、今野選手の気持ちも本当に分かります。後半40分ロスタイムという時に頭が真っ白になって、今どういう状況か分からなくなるんですよ。昔を思い出して。ただ、今野キャプテンは「自分だけのせい」だと言っていましたが、周り全員が声を掛けあっていれば、ひょっとしたら未来が変わっていたかもしれない。そこはチーム一丸となって、最後コミュニケーションを取っていればと思いますので、次に向けての課題かと思います。

明治大学
平翔太キャプテン
今週良い準備をしてきたのですが、試合で自分たちが課題としてきたフォーカスが体現できなかったことが今後の課題だと思います。2点でも3点でも勝ち切れたことは大きな収穫です。
ーー最後のシーンで考えていたことは?
敵陣でフォワードが頑張ってくれていた。最後自分たちのミスで、ディフェンスをする形になったのは課題であると思います。取り切れないと負けてしまうこともあるので、次週からしっかりと修正していきたいと思います。
ーー相手の事情はわかっていた?
ドロップゴールを狙うと思っていたのですが、キャプテンが外に出したのでびっくりしました。

神鳥裕之監督
本日はありがとうございました。100回目の慶明戦ということで、本当に相応しいお互いにぶつかり合う激しい試合だったと思います。前半、良いスコアで折り返すことができたのですが、慶應さんのタックルといいましょうか、この試合に懸ける想いがプレーに出てきていたと思います。
後半、受ける時間帯が多くなってきて、苦しい時間が多くなってきたと思います。その中でもしっかりと勝ち切れたのは一つの収穫だと思いますし、対抗戦初戦を落とした状況を考えると、勝つか負けるかでは違います。
残り2戦は上位校との対戦となるので、しっかりとレベルアップして、よい準備をし、臨みたいと思います。
ーー試合途中、伊藤龍之介選手と竹之下仁吾選手の交代はなにか考えがあったのか?
伊藤選手は大きな負傷ではないが、パフォーマンスが上がらないような状況だったので、無理せず新しい選手を入れた方が戦えるのではとの判断になった。竹之下選手は出場していた時間はよいパフォーマンスをしてくれていたと思いますが、うしろに古賀選手というインパクトプレイヤーが控えていたので、戦術的なことも考えての判断になりました。
ーー戦術的に交代をしたとのことだが、竹之下選手のパフォーマンスや練習でどのようなことを行ってきていたのか?
竹之下選手は今年日本代表の合宿にも参加しました。一貫性をもったプレーができることが彼の良さ。今日の慶應戦となると、前半の入りであったり、タイトなシュチュエーションが続いたりする中で、ハイパフォーマンスができます。今日もハイパントキャッチもそうですし、ポジショニングなどしっかり出してくれるのが、彼の強みだと思います。
古賀選手に関しても1年生ながら、黄金ですねほんとに(笑)。インパクトという意味では一発の強さもありますし、チェイスのスピードもあります。うしろ(リザーブ)から入ってきて、疲れた時間にしっかりと彼の強さも出すと。今日は良い感じで彼の強みが出たと思います。

