【夏物語】この夏、僕たちは強くなる ~細剣で、巨壁を斬る|佐野日大

「今年の夏、國栃がセブンズで日本一になった試合を見た時に、自分たちはここを目指さなきゃいけないと思いました」

佐野日本大学高校ラグビー部主将・大川瑛仁選手は言った。

國學院栃木を超えること――それはすなわち、『日本一』を意味する。

細い剣の戦い方

栃木県にある佐野日本大学高校ラグビー部。

創部は1991年4月。

全国の舞台へは2015年に夏の7人制で、2018年には春の選抜大会で出場経験を有するが、冬の花園にはまだ、到達したことがない。

そんなチームがこの夏、日本一のチームを倒すために掲げたテーマは「ディフェンス改革」だった。

「僕たちは体が細いので、前に出ないと勝負にならないんです」と大川キャプテンは理由を説明する。

相手に押し込まれる前に、思い切って前へ出ること。

体格では敵わないからこそ、『上がる』勇気で勝負すること。

それが、佐野日大の戦い方だ。

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OBも力を貸す。現在コベルコ神戸スティーラーズに所属する杉本崇馬選手は度々母校を訪れ、惜しみなく知識を後輩たちに伝えているのだという。

「ディフェンスの『上がり』と『流し』を中心に教えてもらいました」とキャプテンは感謝する。

体の細さを弱点ではなく武器に変えるため、俊敏さと一体感を生かしながら全員で距離を詰める様はまるで、重い刀ではなく、細い剣で懐に飛び込む剣士のようでもある。

キャプテンの歩み

大川選手が今季のキャプテンに就任したのは、選手たちの投票と監督・コーチ陣の判断によるものだった。

「自分がキャプテンになるとは思っていなかったので、正直驚きました。最初は『自分で引っ張っていけるかな』という不安がありました」と振り返る。

そんな大川キャプテンがまず取り組んだのは、誰よりも『理解する』ことだった。

「チームの課題を見つめ直して、一番ラグビーのルールを理解することに努めました。ちゃんと理解していないと、仲間に伝えられないと思ったので」

練習の合間にも、仲間に戦術を確認したり、プレーの意図を言葉にしたりするよう心掛けた。

もちろん試合でミスが出ても、仲間に怒ることはない。

「どうする?」と声をかけ、次のプレーへと導く。

「まずは自分が積極的に声を出して、チームの雰囲気を作っていきたい」と意図を語る。

その姿勢は、徐々にチーム全体へと伝播していった。

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“サニチ”に根づく誇り

「ここでラグビーできてよかった。毎日が楽しいです」

夏の真っ只中、大川キャプテンは日に焼けた笑顔でそう話した。

現在、佐野日大の部員数は30人に満たない。けが人が出れば、メンバー表25人を揃えることさえ容易ではない。

だが、いや少人数だからこそ、全員が顔を見合わせ、声をかけ合うことはできる。

「練習からひとつひとつのプレーを大切にしています。僕たちは、小さい挑戦を積み重ねています」

佐野日大のラグビーは、一人ひとりが日々の一歩を積み上げていくことで形を成す。

「國栃を倒す」というただ一つの目標。

だが、その過程には『自分たちがどう成長するか』という問いもある。

「國栃は強いです。でも、僕たちも着実に変わってきている。あとは、どれだけ本気でその差を埋められるか、だと思っています」

佐野日大は11月1日、第105回全国高校ラグビーフットボール大会栃木県予選・準決勝で合同チームに勝利し、3年ぶりの決勝進出を決めた。

決勝戦の相手はもちろん、國學院栃木。

細い剣で、巨壁を斬る戦いへ。

決勝戦は11月8日(土)午後1時10分、栃木市総合運動公園陸上競技場でキックオフを迎える。

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