8月31日に幕を開けた第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会 埼玉県予選。
記念大会となる今年は、埼玉県から2校が全国大会へと出場するため、トーナメントは2つの山に分かれて進行した。
11月15日(土)には熊谷ラグビー場Aグラウンドで決勝2試合が行われ、第1地区代表はディフェンディングチャンピオンの昌平が熊谷に36-22と勝利。2年連続の埼玉県4冠を達成した。
昌平 ~追求した”昌平らしさ”
ホッとした、よりも満足感。
達成感、よりも自信。
昌平高校キャプテン・HO宮元崇選手の表情には、準決勝時とは見違えるほどの朗らさが宿った。
「楽しかったです」

2年連続の4冠を目指し戦った、第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会 埼玉県予選。
決勝の相手・熊谷高校は、熊谷ラグビー場から3㎞ほどの距離に校舎を構える。
学校を挙げた全校応援をみせた熊谷。その声援量は、太く、厚く、塊となって熊谷を後押しした。
昌平フィフティーンにとっては、さぞかし脅威となったのではなかろうか、と思いきや。宮元キャプテンはあっけらかんと「僕たちに向けられている応援だと思って、楽しんでプレーしました」と笑った。
指揮を執る船戸彰監督も同様に、特段の緊張はしなかったと話す。
「熊谷高校の応援がすごかったので、吹っ切れた。もう少し応援が少なかったら、逆に緊張していたと思います。これだけ応援が来るってすごいな・・・と、ウォーミングアップから力が入った」と、切り替えられた理由を語った。
昌平がこれまでに5度、花園に出場している強みだろう。
京都成章、天理、大阪朝鮮。
関西圏のチームと花園で戦ったということは、アウェーの環境下で戦い抜いた60分があるということ。
その経験値をチームとして積み重ねてきたからこその言葉にも聞こえた。
「昌平の応援にも来てくれた人たちがたくさんいました。ベンチ裏には、試合に出られない3年生たちも残っていた。その人たちのために、頑張りたかった」
宮元キャプテンの言葉には、チームへの愛情が宿った。

振り返れば、準決勝でのこと。宮元キャプテンは思うようなプレーができず、途中交代という悔しさを味わった。ラインアウトのスローイングがうまくいかなかったことから、他のプレーにも影響が及んだのだ。
だから、決勝戦までの1週間は。チームのことは他のプレイヤーに任せ、自らのプレーに集中することにした。
ラインアウトのスローイングも、2年生に託すという判断。
キャプテンだから、自分が全てを担わなければならぬわけではない。
ひとつのチームとして、”昌平高校ラグビー部が優勝するための自分のプレー”に徹した。

決勝戦は、熊谷の2連続トライから始まった。
1つ目の被トライは「完全に自分のタックルミス」と話すは、フルバックの宮本和弥バイスキャプテン。
「ちょっとヤバいな・・・と思ったのですが、アタックをしてみたら『イケる』とも思った。60分間の中でミスが続く時間は訪れる、と事前に話していた」ことが、気持ちを落ち着かせた。

準決勝からの1週間、ディフェンスは対・熊谷高校を見据えた対策を。逆にアタックは、昌平らしさをどのように表現するかと突き詰めた。
昌平らしさ、を形作るものの一つが、ブレイクダウンの強さ。
強いフォワードが強く前に出るその勢いで、若いバックス陣も仕留め切る役割を担った。
0-14と、2トライ2ゴールビハインドからの逆転劇は、グラウンドに立つ15人それぞれが”昌平らしさ”を追求した結果もたらされたものだった。

全6トライで表現された昌平の武器
1つ目のトライは、14点を追いかける前半13分。
No.8但木陽選手が力強いボールキャリーで何度も前に出れば、トライライン前ペナルティからタップキックスタートを切り、FWが前進。最後は7番・松原空夢選手がグラウンディングした。
15番・宮本選手がコンバージョンゴールを沈めれば、まずは7点を返す。
2トライ目は、前半20分。
ここでもFWが体を当て、最後は8番・但木選手が仕留め切る。あっという間に、試合を振り出しに戻した。

試合中、FB宮本バイスキャプテンが何度も言葉を交わした相手は、スタンドオフの木場理人選手。
ゲームメイクを託された木場選手は、なんと1年生。
「リヒトはキックの正確性があって、タックルも良い。だからポジショニングについてコミュニケーションを取ったり、どこをどのように攻めるか、という話をしたりしていました」
自身も1年時から出場を続けたからこそ、今、かつての自分と同じ境遇で奮闘する後輩を思いやった。

後半は、フィジカルの強さを遺憾なく発揮した昌平が主導権を握った。
5分、相手ボールスクラムをターンオーバーすると、素早い球出しから最後は1番・川畑幹寛選手が押し込んでトライ。
13分、リスタートキックオフからテンポ良くボールを動かし、アドバンテージを得ながら攻め込めば8番・但木選手がまたしても飛び込んだ。

その4分後、17分にはラインアウトモールで前進し、バックスも加われば12番・玉川皓登選手がトライ。
22分、カウンターラックから10番・木場選手が左端を走り切って、とどめのトライでフィニッシュした。

捕まえられても足をかき、50:22でエリアを奪い、ミスが出てもディフェンスでボールを奪い返す。
圧巻だった、後半の4トライ。地力を発揮した、後半の30分。
36-22。
昌平高校は、確かなゲーム運びで2年連続6回目の優勝を果たした。
One Team, One Dream
辿り着いた、2年連続の埼玉県4冠。
2月の新人戦に始まり、5月の関東大会予選、6月の7人制、そして11月の全国高校ラグビー埼玉県予選。
「自分たちで4冠を達成すると決めていた。だから『4冠』はプレッシャーではなく、遂行するしかないものだった」と言い切った宮元キャプテン。
船戸監督は「嬉しい。誇らしい。これをどこまで継続できるか、という楽しみと。そういうフェーズに入ってきたかな、とも感じます」と先をも見据えた。

今冬、昌平は6度目の全国高校ラグビー大会へと挑戦する。
「年越しするために、コンディションを整えて100%の力でチームを引っ張っていきたい」と誓ったFB宮本バイスキャプテン。
「1ヵ月間、プレーの強度と精度を上げたい。フィジカルも上げて、FWから圧倒していけるチームになりたいし、ディフェンスからどんどん流れを作る昌平らしいチームを作り上げます」とたくましい表情を見せた、HO宮元キャプテン。
そして率いる船戸監督は「ディフェンス、ラインアウト。やらなければならないことは山積みですが、楽しんでこれだけ結果が出るということも分かった。だから残り1ヵ月も、どう環境を整えてあげるか。この決勝戦を経験していない選手たちも含めて、チームとして上のレベルに引き上げていきたい」とこれから先の道のりに意識を向けた。

花園出場は決して、ゴールではない。
昌平が未だ見ぬ『1月1日の花園』の景色にたどり着くために。
One Team, One Dream.
まだ、夢は続く。

