涙の1点差。「見事な恩返し」を胸に、東洋大学が挑む最終戦

東洋大学ラグビー部には『鉄紺の行動指針』がある。

全10箇条で構成されるそのうち、第8条に示されているのが「とにかく恩返しをする」だ。

悲願のリーグ戦1部初優勝を懸け、東洋大学は11月3日(月・祝)、東海大学との全勝対決に挑んだ。

“見事な恩返し”を誓ったゲームウィーク

その試合の数日前、ゲームウィーク初日の練習でのこと。

埼玉県川越市にある東洋大学の練習グラウンドでは、全体練習が始まる前に大きな輪が組まれた。

その中心で、福永昇三監督は部員たちに静かに、しかし力強く呼びかけた。

「見事な恩返しをしよう」

鉄紺を背負う者に求められるのは、“ただの”恩返しではない。

“見事な”恩返しだ。

その言葉を胸に、東海大学へと立ち向かった東洋フィフティーン。

試合はシーソーゲームの展開。何度もリードが入れ替わる激しい攻防となったが、最後は東海大学が27-28と引き離した。

東洋大学は最後までトライを狙い続けたものの、あと1点が届かず、全勝優勝の夢は潰えた。

涙に暮れるWTB浅尾至音選手(3年生)。その肩にそっと手を添えたのは、高校の先輩であるCTB天羽進亮選手(4年生)だった。

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主将が示した“背中”

No.8ステファン・ヴァハフォラウ主将は、表彰式後もすぐにはグラウンドを離れなかった。

まずはチームメイト全員が退場する姿を、じっと見送る。

そして最後に深々と腰を折り、長い時間をかけてグラウンドへ頭を下げた。

「今日は気持ち的に、みんなが出てから自分がグラウンドを出た方がいいと思いました」と理由を説明した。

そして、静かに言葉を重ねる。

「この結果は必要だったのかもしれない。自分たちには足りない部分が多かった。それを東海さんが教えてくれました。だからこの結果は有難い。この悔しさを力にもっと強くなれる。リーグ戦を戦い抜いて、大学選手権で優勝を目指します」

鉄紺の行動指針。その最後を飾る第10条には「見事な御礼をする」と記されている。

その精神を体現したのが、主将自身だった。

「これ以上の要求はできない」

モスト・インプレッシブ・プレイヤーに選ばれたCTBアダム・タマティ選手(4年生)もまた「これ以上のことを仲間に求めることはできない」とチームメイトを誇った。

「結果は悔しかった。でも、4年間積み上げてきたことは間違いじゃない。最近も努力を怠らず、ずっとハードワークしてきた。だからこそ、シーズンが続く限り、自分たちのできることをあきらめず続けることが大事だと思います」

やり尽くした。それでも届かなかった。

だから現実を、真正面から受け止めた。

試合後。福永監督は「まだ、足りないんだ」と静かに噛み締めた。

「スケジュールが出た時から、この試合に懸けていました。今年は(全勝で)優勝させたかった。だから勝てなかったことで『凡事徹底』の重みを、言葉の意味を突き付けられた気がします。これから先に必要な経験をさせてもらったと思っています」

言葉は、すぐに前を向く。

「でもまだ、終わっていないので。一つひとつ丁寧に準備したいと思います」

歩を進めた。

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『凡事徹底』への原点回帰

東海大学戦の敗戦を経て、東洋大学は改めて『凡事徹底』に立ち返った。

あたり前のことを、極めて高いレベルであたり前にやり切ること。これは決して、あたり前ではない。

だからこそ、徹底する。

ラグビーボールを持たない日常生活でも、鉄紺の行動指針を体現し続けた。

すべてはいつの日にか、ラグビーの神様がほほ笑む瞬間に出会うために。

敗戦から2週間。

東洋大学は流通経済大学戦でサヨナラ逆転トライを決め、歓喜に沸いた。

現在の星取表は、1位が東海大学で勝ち点34。次いで東洋大学が勝ち点30で、2位につける。

最後まで勝利を目指し信じた者だけが勝ち獲る、リーグ戦の王座。

東洋大学は11月30日(日)、秩父宮ラグビー場で昨季王者・大東文化大学とのリーグ戦最終戦に挑む。

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