9月13日に開幕した、関東大学ラグビー 対抗戦Aグループ。
12月7日(日)には国立競技場で最終戦となる明治大学対早稲田大学が行われ、明治大学が25-19で勝利。5年ぶり19回目の優勝を飾った。

明治のキックオフではじまった、第101回早明戦。
最初のスクラムは早稲田がアーリープッシュを取られ、続くセカンドスクラムでは明治にコラプシングが宣告された。
試合が動いたのは前半18分。
敵陣深くでの早稲田ボールラインアウトから、右サイドでボールを受けた15番・矢崎由高選手が個人技で複数人をかわしてグラウンディング。
12番・野中健吾キャプテンのコンバージョンゴールも決まり、早稲田が7点を先制した。

その後、両校が1本ずつPGを決めて迎えた前半31分。
明治はラインアウトモールを押し込み、最後は6番・最上太尊選手がトライ。10-10と試合を振り出しに戻し、前半を折り返した。

後半、最初に動いたのも明治だった。
早稲田が自陣深くから脱出を図った場面で、1番・田代大介選手がキックチャージ。こぼれ球に走り込んだ13番・東海隼選手がそのままインゴールへ運び、明治が15-10と逆転した。
さらに後半17分、明治は敵陣で得たペナルティからPGを選択し3点を追加。18-10と、2ポゼッション差の8点リードを奪う。

しかし早稲田も粘る。
後半22分、26分と2本のPGを沈め、18-16と再び2点差に迫った。
それでも、反則が重なったのは早稲田だった。明治は敵陣深くでのラインアウトからモールを形成し、FW陣が押し込めば再び最上選手が腕を伸ばしトライ。
後半32分、25-16と9点差に広げた。

早稲田は後半35分、スクラムでコラプシングを誘ってPGを決め25-19。
6点差まで詰め寄るも、終盤の猛攻かなわずノーサイド。
ファイナルスコアは25-19。
明治大学が歓喜の笑顔に咲いた。


明治大学 ~完遂
筑波大学にサヨナラトライを許し、悔しい黒星で幕を開けた今年の対抗戦。
その試合ぶりを見れば、どこか“明治らしさ”は薄かった。
「筑波大学戦から慶應義塾大学戦までの試合(第1節~5節)は、いろんなことをやろうとしすぎて、少し混乱していたと思います」と話すは、SO伊藤龍之介選手。
「オプションが増えすぎて、何を選べばいいのか分からなくなっていた。本当だったら真っ直ぐ当たれば強いのに、小手先のプレーで前に出ようとしていた部分がありました」と振り返る。

だから明治は、一度原点に立ち返った。
自分たちの強みとは何か。それをメンバー全員が理解し、その軸に沿ってゲームを組み立てていくこと。
そこに、明治らしさを取り戻す鍵があった。
慶應義塾との激戦からの2週間、チームは徹底的に議論を重ねる。
「僕たちはどんなラグビーをしたいのか。どうやって勝つのか。全員で話した結果、今のスタイルに行き着きました。それがチームにフィットして、帝京大学戦、早稲田大学戦の連勝にもつながったと思います」
明治が、再び“明治”になった。

ただし、過去をなぞるのではない。今年のチームだからこその、新しい明治だ。
「真面目なラグビーです。トリッキーなことはしない。プランを徹底すること。それこそ今季のスローガン『完遂』です。決めたプランを最後までやり切るラグビー。特に自分たちの簡単な意思で動かさない、簡単な意思で崩れないようなかたいプランを作ること。どんな想定外をも想定すること。それを試合で遂行しきること。それが今年の明治です」

CTB平翔太キャプテンもまた、対抗戦最終戦の激闘を終えると、こう語った。
「今日は全員が自信をもって、開始1分からフィールドに立てていた。だからこそ、ポジティブにゲームを楽しめていました」
今季のスローガンに掲げるは『完遂』。
何を完遂するのか。完遂するために、何をすべきなのか。
この日、明治大学は「最後の1分1秒まで隙を見せずに戦う」という意識を全員で共有し、試合に臨んでいたと平キャプテンは言う。

諦めないこと。そのメンタリティは、平キャプテンの表情にも現れた。
ただし、それは険しさとしてではない。どこか穏やかで、この瞬間を心から楽しんでいるような佇まいだった。
完遂するために、信じること。
完遂するために、楽しむこと。
ハーフタイムを終え、グラウンドに戻ってきたときも。試合終盤、早稲田の追い上げを受けたときも。
平キャプテンは、ラグビーを楽しんだ。

試合後。今季の寮長で、ジュニア戦のキャプテンを務めた山川遥之選手を見つけると、平キャプテンは満面の笑みで抱きついた。
その右頬を、一筋の涙がつたう。
「4年間で、対抗戦初優勝。こみ上げてくるものがありました」
この日、平キャプテンの左手首には2つの言葉が記されていた。
一つは「前へ」。
もう一つは、接点。
明治大学第102代主将・平翔太。
その背中が、チームを5年ぶりの対抗戦頂点へと導いた。


左手首には「前へ」と、接点の文字が
Pick Up Player
前半33分。
10-10の同点トライを決めた直後のリスタートキックオフだった。
1番・田代大介選手の力強いリフトを受け、空中でボールを確保したのは4番・亀井秋穂選手。
そのまま一直線に駆け出し、敵陣10mまで大きく切り裂くビッグランを見せた。
「大介がいいリフトをしてくれたので、良い形でキャッチできました。運が良かったです」と笑顔を見せる。

ロックにフランカー。複数のポジションを担ってきた亀井選手は、高校日本代表、U20日本代表、U23日本代表と、桜のジャージーを着実に重ねてきた。
そして今年、明治ではロックを軸とする道を選ぶ。
「自分は体を当てて勝負したいので、ロックでバチバチにいきたい」
そう直談判して、ロックに定着したという。

ロックが務めるべき重要な役目の一つはラインアウト。
「ラインアウトを指揮する上で、自分が一番理解していなければいけない」と語る姿には、リーダーとしての自覚も芽生えた。
細身の体つきは、明治大学の代名詞でもある”重戦車”という言葉からは一見遠いが、亀井選手は少し照れたように笑って言った。
「ボールキャリーやモール、スクラムで、“重戦車”らしいプレーを見せたいです」
大学選手権に向け、気を引き締めた。
◇
今年の対抗戦開幕戦・筑波大学戦でデビューを果たし、この日もスターティングメンバーとしてピッチに立ったのは、WTB阿部煌生選手。
「筑波戦では(スタンドオフの伊藤)龍之介さんに頼りすぎてしまって、アタックのコントロールをすべて龍之介さんに任せてしまいました。そのせいでキャパオーバーさせてしまったんです。だから自分の役目は、しっかり外からオプションコールを出すこと。外から声を出せばボールが回ってくることも、その後の試合で分かりました。今日はそこを意識して、プレーしました」
国立競技場という、プレイヤーの声が観客の熱気にかき消される環境の中で、ウイングとして求められる仕事を。
阿部選手は、外側に構える者としての役割を、後半38分に交替するまで黙々と果たし続けた。

