第62回全国大学ラグビーフットボール選手権大会3回戦が12月14日(日)、東京・秩父宮ラグビー場で行われ、東洋大学は帝京大学に14-29で敗れた。
前半を2点リードで折り返したものの、後半終盤に3トライを許し、大学選手権初勝利には届かなかった。
「選手はよく、最後の瞬間まで全力を尽くしたと思います。選手を誇りに思います」
記者会見での第一声。
福永昇三監督は、そう言って選手たちを称えた。その目は、涙で腫れていた。

前半のスコアは7-5。東洋大学が2点をリードして折り返した。
ポゼッション、エリアともに優位に進めた最初の40分。だが、得点は伸びない。幾度もモールを組んだが、仕留め切れない時間が続いた。
それでも前半15分、待望のファーストトライが生まれる。
少し高めの大外へのキックパスを、身長2m11cmのジュアン・ウーストハイゼン選手が難なくキャッチ。その懐から走り込んだWTB中山二千翔選手が前進し、最後はFB池渕紅志郎選手がトライゾーンへと持ち込んだ。
モールからの二の手を準備してきた東洋大学。その狙いが結実したトライだった。


後半に入っても、15分までは2点のリードを維持し続けた。
4連覇中の王者・帝京大学を相手にした、東洋大学のディフェンスは圧巻。
何度もカウンターラックを仕掛け、トライゾーン目前でボールを掻き出す。ノックフォワードを誘い、相手の攻撃を食い止め続けた。

合言葉は『SAVE YOUR BROTHER』。
トライラインを守ろう。
家族との時間を守ろう。
仲間を守ろう。
あと1週間、仲間とプレーする時間を守ろう。
その想いが鉄の鎖のように切れ目なく連なり、ディフェンディングチャンピオンを苦しめた。
リーグ戦以上に激しく、ハードに。長い時間をディフェンスに割いて積み上げてきた練習の成果が、大学選手権の舞台で発揮された。

しかし、ラストクオーター。最後の20分で3トライを許す。
この20分間が、未来への課題として刻まれた。

ラインアウトの前。スクラムの前。負傷者が出てタイムオフになった時。
東洋フィフティーンは、そのたびに小さなハドルを何度も組んだ。
「死ぬ気で」
輪の中でそう言葉を発したのは、HO小泉柊人選手とFL森山海宇オスティン選手。4年生の2人だった。
その言葉で「もう一段階、スイッチが入った」とキャプテンは振り返る。
「4年間、しんどい練習をしてきました。ここでやらなかったら意味がないな、と思って。そういう言葉を掛けました」
『死ぬ気で』の意味を問うと、小泉選手は涙をこぼしながら、そう語った。


7-29で迎えた、後半46分。
ラストワンプレーから連続でペナルティを奪い、敵陣5mで最後のラインアウトモールを組んだ。
この日、何度も挑戦したモール。
この1年間、繰り返し練習してきたモール。
いや、この4年間で積み上げた、プライドのモール。
フォワードがフォワードとしての役割を全うするために、全員が、気持ちのこもった塊を必死に押した。
「1年間、フォワードが鍛錬を重ねてきたのはモール。僕たちが一番自信のあるプレーでした。このためにやってきた、という思いがありました。だからモールでトライを取りたかった。モールにこだわりたかった」
最後尾でボールを持ったHO小泉選手は、その時の心境を振り返った。

そしてついに後半46分。レフリーの手が上がる。
小泉選手がグラウンディングし、優秀の美を飾った。



試合後。
ステファン・ヴァハフォラウ主将は激戦を振り返れば、チームアイデンティティを口にした。
「こんなレベルで戦えるのは当たり前ではない、ということをみんなが思って、最初から最後まで出し切りました。トライを取られても、最後の最後までやってくれた。選手一人ひとりが、東洋大学が大事にしている『和』を見せてくれたと思います」
『和』とは、今年9月の秋季公式戦開幕前共同会見で、主将自らが「今年の漢字一字」として挙げた言葉だ。
「仲間との関係性を大切にしたい。ただ繋がるのではなく、心がちゃんと育った状態で、一丸となって戦いたい」
そう説明していた秋のはじめ。
この日、ヴァハフォラウ主将の左手首には、『NAVY』とともに『和』の文字が記されていた。

和を以て貴しとなす。
調和を重んじること。

和衷協同。
心を一つにして力を合わせること。

和魂洋才。
日本の精神を保ちながら、西洋の知識や技術を活かすこと。

一味和合。
異なる人々が調和し、一つのものを分かち合うこと。

和は力なり。
一致団結すれば、大きな力になること。

東洋大学はこの日、部員65人の『和』で、部員数145人を擁する帝京大学に立ち向かった。
「この一戦は、チームの未来に繋がる」
そう語った福永監督。
「後輩たちに『勝つ鍵』を渡した」
そう託したヴァハフォラウ主将。
「あと一歩、前に出ればトライを取れる。パスを放るときのフォロースルーや、キャッチの手の位置、こぼれたボールのセービング。エンディングポイントをもっと意識すれば、もう少しトライは取れたと思う」(ヴァハフォラウ主将)
その言葉とともに、『勝利への鍵』は、次の世代へと手渡された。

