第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会の幕が、いよいよ上がる。
全56校が日本の高校生ラガーマンを代表して、頂点を目指す戦いへと挑む。
それぞれの学校が積み重ねてきた時間には、何があったのか。いま、どんな想いで聖地に立つのか。
開幕直前、14校の想いとは。
國學院大學栃木高等学校
全国の舞台に立ち続ける理由がある。
「高校生は、立ち止まったら終わり。全国のライバルは走り続けている。だから、僕たちも走り続ける」(吉岡肇監督)
その言葉通り、初の全国タイトルを手にした夏以降も、國學院栃木は止まらなかった。
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夏以降に力を注いできたのは、アタックの質だ。
守るだけでは勝てない。得点できるチームになるために、どこで、誰が、どう関わるのかを細かく整理した。ただしどれだけ点差が開いても、どれだけ流れが良くても「丁寧さ」を失わない。その基準は、一切揺らぐことはなかった。
グラウンドには笑顔も多い。雰囲気は明るい。だが、いい加減なプレーに対する妥協はない。そのメリハリが、今季の強い國學院栃木を形成する。
指揮官が特に重視するのは「フォロワーシップ」だ。
「リーダーが孤立したら、チームは崩れる」。だからキャプテンだけが引っ張るのではなく、どれだけ多くの選手が同じ基準まで意識を引き上げられるか。バックスは昨季から主力として活躍する選手も多く、フォワードは小柄ながらも執念を体現するプレーヤーたちが魅力。今年のチームは、そんな選手たちで土台を大切に作り上げてきた。
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とはいえチームの象徴は、主将・福田恒秀道選手だ。
全国7人制大会で王座を獲得して以降、チームのコアには「根性」が根付く。しかしそれは単なる精神論ではない。
「きつい状況でも強気でいられて、丁寧なプレーを続けられること。それが根性だと思っています」(福田キャプテン)
追われる立場になりつつある現状を自覚しながらも、福田キャプテンの視線は常に「今」にある。「先を見すぎると足元が崩れる。だから、今日をどう積み重ねるか」。全国選抜大会や国スポ予選での敗戦を経て、チームへの愛情と責任感は、より深まった。
挑む花園での目標は明確だ。15人制で、初の日本一へ。
吉岡監督は言う。「学校の歴史に残る試合を、一つでも多くしたい」
走り続けてきた日々の先で、問われるのはただ一つ。花園では、どれだけ「丁寧さ」を、そして「根性」を60分間貫けるか。

桐蔭学園高等学校
日大藤沢を78-7で下した、神奈川県予選決勝後のこと。藤原秀之監督は、現在地を語った。
「一通りのことはやったが、連携やシステムはまだまだ」
今季先発メンバーのうち、昨年の花園優勝を経験しているのは数えるばかり。その自覚が、チームの空気を引き締めている。
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6月の関東大会で國學院栃木に敗れた後、徹底したのは原点回帰だった。
ブレイクダウンにディフェンス。接点で負けないこと、1対1で倒れないこと。派手な修正ではない。だが、勝敗に直結する基礎を、もう一度細部から見直した。夏合宿は、土台を固め直す時間だった。
選手たちも、その変化を自分事として受け止める。
堂薗尚悟キャプテンは「自分たちは体が大きいチームじゃない」と前置きした上で、「だからこそ1対1ではなく、2対1で押し込む意識を全員が持たないといけない」と語る。どうしたって花園3連覇の期待はかかるが「自分たちはこの代で優勝を目指すだけ」と言い切る。
バイスキャプテンである前鹿川雄真選手からは、立場の変化がにじむ。
1、2年時は先輩に習うばかりだったが、今は後輩を連れて少人数でタックル練習を行うようなった。「いい文化は、残さないと意味がない」。先輩たちから受け取ったものを、今度は自分たちが手渡す番だという意識が、行動に表れた。
戦術面で象徴的なのは、竹山史人選手の起用方法だ。
この夏、藤原監督は竹山選手をスクラムハーフとスタンドオフ、両方での起用を試みた。特にスクラムハーフに入った時のグラウンドの掌握ぶりは秀逸。竹山選手自身は「再現性のあるゲームコントロールをしたい」と精度を追い求め続け、いまに至る。
負傷から復帰した13番・古賀啓志選手の存在も大きい。9月に復帰後、徐々にフィジカルが戻り、違いを生み出した。「彼がいると、チームの景色が変わる」と藤原監督は評価する。
今年の桐蔭学園は、完成された王者ではない。だからこそ試合毎の成長幅が、楽しみでもある。


東海大学付属相模高等学校
3大会ぶりの花園出場という、スタートラインには立った。だが、神奈川県大会決勝後、三木雄介監督の口から最初に出てきた言葉は「反省しかない」だった。
40-10で関東学院六浦を下し、全国高校ラグビー大会出場を決めた。だが相手校の圧に押され、東海大相模は自分たちから仕掛けることができず、受けに回ってしまった60分間だった。
「隙があっても攻めない。消極的でした」と三木監督。風向きが変わる中でボールを動かそうとはしたが、敵陣に入り切れない。プレッシャーがかかると判断が遅れ、攻撃の継続力を欠いた。流れを自分たちでつくれなかったことを、監督は厳しく受け止めた。
ディフェンスにも課題は残った。相手バックスの動きに対し、人数整理や立ち位置の判断が追いつかない場面が目立つ。「点数よりも、相手の気持ちの方が上回っていた」。闘争心の差が、そのままプレーの精度に表れてしまった。
一方で、選手の目から見えた手応えもある。
中尾思キャプテンは「フォワードのフィジカルやボールキャリー、セットプレーには感触があった」と前を向く。ただし、バックスのゲームメイクについては「エリアの判断ができず、単調な蹴り合いになってしまった」と振り返る。フォワードが前に出ても、全体として試合をコントロールし切れなかった。
後半にギアが上がらない現状を打破するため、判断力、いわゆるラグビーIQの向上にも着手している東海大相模。エンジンであるフォワードの出力は十分。あとは、その力を最適に伝えるトランスミッション、つまりはバックスの判断とマネジメント力を伸びしろとして表したい。
フォワードとバックスが再び一体となり、「相模らしいラグビー」を取り戻せるか。花園までの時間は、その噛み合わせを整えるための、重要な調整期間となった。

大阪桐蔭高等学校
「今年の夏は、とにかく“中身”にこだわっています」
そう語った綾部正史監督の言葉には、昨季花園ベスト8で終わった悔しさがにじむ。
結果が出た試合でも、内容が伴わなければ評価しない。タックル後のリアクション、ブレイクダウンでの精度、ミスが起きた直後にどんな会話が生まれるのか。その一つひとつが、冬へ向かうための土台だと捉えている。
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今年のチームを束ねる手崎颯志キャプテンが何度も口にする言葉は「初志」だ。
「自分たちは、強いと言われてきた世代じゃない。だから、最初に決めた志を、最後までやり切るって決めました」
慢心も、過信もない。あるのは、目の前の一歩を踏み外さないという覚悟だけだ。
そして最後に大切なのは「根性」だとも手崎キャプテンは言う。
「1人ひとりの気持ち」
それがなければ、絶対に頂点まではたどり着けぬことを、知っている。
今年の大阪桐蔭は、どれだけ初志を見失わず、どれだけ気持ちを込め、貫けるか。その姿勢が、強さとなる。

慶應義塾志木高等学校
初めて迎える、花園の大舞台。慶應義塾志木高校ラグビー部には、世代と立場を越えた『慶應力』が結集した。
そのうちの1人が、同校OBのWTB・石垣慎之介選手(慶應義塾大学4年)。
大学選手権3回戦・京都産業大学との激闘を終え、ラグビー人生に区切りを打ったその3日後。日吉のグラウンドに立ち、母校の後輩たちの練習相手となった。
20分を2本。「キツい!」と声を上げながらも、最後まで胸を貸した。

「今の自分にできる一番のことは、後輩たちに還元すること」
石垣選手の行動の背景には、高校時代の悔しさがある。コロナ禍の中、自身が主将だった代でチーム内に感染者が出てしまい、花園予選への出場辞退を余儀なくされた。戦うことなく引退を迎えた不完全燃焼。その想いが、後輩たちへの指導へと繋がった。
ただし、石垣選手は後輩たちに自分たちの代の無念を背負わせるつもりはない。
「自分たちの分まで頑張れ、とは思わない。自分たちの色で戦ってほしいです」
一瞬一瞬を楽しみ切ること。その言葉は、花園を目前に控えた選手たちの肩から、余計な重さをそっと取り除いた。
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指揮を執る竹井章氏は、同校を指導して41年目の今季、監督に立場を変えた。これまでは部長職としてチームを支えてきたが、現場に集中できる環境を得たことで、選手一人ひとりとより深く向き合えるようになった。
部員の3分の2は、高校からラグビーを始めた選手たち。だからこそ花園で徹底するのは、複雑なサインプレーではない。「すぐ立つ」「頭を入れ込む」。ひたむきで泥臭い、慶應志木らしさを貫くことを最優先にするという。

稀代のキャプテンシーを有する主将・浅野優心選手は、対戦相手が決まった頃からチームの空気が一段引き締まったと振り返る。目標は「2回戦を突破して、正月まで残る」こと。初戦の相手・青森山田は留学生を擁し、強力なアタックが武器となる。だからこそ、慶應志木は組織的なディフェンスで真っ向から挑む構えだ。
栃木・宇都宮から新幹線通学を続けながら、勉強とラグビーを両立してきた浅野キャプテン。「花園に出たい」と入学時に抱いたその想いを、仲間とともに貫き、ついに掴み取った念願のチケットを、聖地で最後まで楽しみ尽くしたい。
初めての花園。どうしたって、緊張はするだろう。だからこそ、どれだけ自分たちにできることを見失わず、組織力と泥臭さを貫けるか。

流通経済大学付属柏高等学校
相亮太監督が今夏の最優先事項に挙げたのは、ディフェンス。
「まず守れなければ、流経のラグビーは成り立たない」
春の全国選抜大会では失点が重なったことで、今年の方向性が定まった。
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夏合宿で徹底したのは、接点で前に出ること。ラインを揃え、粘り強く守り続けること。派手なプレーではないが、守備の基準を全員で揃える作業を、何度も繰り返してきた。「簡単に下がらない」。その意識が、少しずつ形になり始めた。
一方で、このチームの最大の武器が攻撃力であることは間違いない。走りながらボールを受け、スピードを落とさずにつなぐ動きは、花園では台風の目となりそうだ。
藤倉悠輝キャプテンも「走り続ける中でオフロードを使い、前に出るのが今年の自分たちのスタイル」と、超攻撃的ラグビーへの手応えをにじませた。
ただし課題もある。試合の途中、特に後半で流れが停滞した時間帯に、もう一段ギアを上げ切れない。「花園で勝つには、停滞した時間帯でもう1本、2本取り切る強さが必要。そのための引き出しを増やさないといけない」と相監督は語る。
その鍵を握るのが、ゲームプランの共有と修正力だ。
ハーフタイムを含め、どの時間帯で何を選択するのか。リードしている時、追う展開になった時、どう流れを引き戻すのか。花園では、一瞬の判断が試合を分ける。
今年のチームスローガンは『奮励』。藤倉キャプテンは「去年も、今年の春も悔しい思いをしてきた。下からはい上がる気持ちを忘れず、一心に努力し続けるための言葉」と説明する。
鋭い攻撃という剣は、磨かれた。そこに守備という盾と、状況を打開する戦術の引き出しが加わったとき、流通大柏は真に頂点を狙う集団へと変貌を遂げる。

山梨学院高等学校
技術でも、戦術でもない。まずは、声。
苦しい時間帯ほど、仲間を前へと押し出す言葉を切らさないのが、今季のキャプテン・鈴木愁平選手だ。
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中学時代のキャプテン経験に加え、高校2年生から全国の舞台を経験し、常に声を出し続けてきた姿勢が評価され、今季順当にキャプテンへと就任した。本人は「ラグビーIQが特別高いわけではない」と謙虚に語る。その分、戦術的な舵取りは理解力の高い仲間に託し、自身は「根性と精神面で引っ張る役割」だと自覚している。
試合中、ベンチに下がった後でも、その声が止まることはない。
今季の山梨学院が掲げるキーワードは「Hard Work」と「Tough Choice」。楽な選択ではなく、常に“きつい方”を選び続ける。大型フォワードの推進力に頼るのではなく、15人全員で戦うラグビーへの転換でもある。
「フォワードとバックスの境目はない。誰が出ても、同じ強度でやり切りたいです」
ボールキャリーひとつ、サポートの一歩。その選択を誤らないことが、勝敗を分けるとチームは理解している。
巨大な推進力で進む船から、全員が漕ぎ、連携して前に進むボートへと進化を遂げつつある山梨学院。
花園でも声を絶やすことなく、きつい選択を選び続ける。

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