いざ、聖地へ。14校を直前Pick Up|第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会

中部大学春日丘高等学校

怪我人が相次いだ、今年の夏。中部大春日丘は、決して順風満帆な夏合宿を行えたわけではなかった。

1番、3番、4番、そしてセンター。チームの約3分の1にあたる主力が戦線を離脱し、とりわけフォワードの中核を欠く現実は重くのしかかった。

「正直、楽な状況ではない。でも、それを言い訳にはできない」

そう話したのは、宮地真監督。大型フォワードが揃わない中、スクラムやセットプレーで苦しむ場面は少なくなかった。

それでも監督の視線は、もっと先を見据えた。「今は土台づくりの段階。花園が完成形です」。短期的な結果よりも、チームとしての成熟を優先する。その覚悟が、言葉の端々ににじんだ。

夏合宿までは、主将を定めることのなかった中部大春日丘。そして合宿終わりに発表された、主将と副将。飛び級でU20日本代表に選出された荒木奨陽選手をキャプテンに置き、U17中部ブロック主将を務めた三治蒼生選手を副将に据える、というものだった。

主将を託されたSH荒木選手は「プレーで引っ張る」ことを意識し、自身の強みであるショートサイドへの仕掛けも、ためらわない姿勢を貫く。

一方バイスキャプテンの三治選手は、怪我を抱え、グラウンドに立てない時間が続いた。あえて一歩引いた立場から全体を見つめ「自分が前に出すぎないことで、周りが話しやすくなる」と、ミーティングでは選手の声を拾い、意見を整理する役割を担った。

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昨季から主力だった選手も数多く、今季スタート時には優勝候補筆頭株だった中部大春日丘。だが全国選抜大会では京都工学院に敗れ、2回戦敗退の屈辱を味わった。

夏。主将になることが決定してから、改めて「絶対に日本一になる」と口にした荒木キャプテン。その言葉には、根拠なき強がりではなく、苦境を通して生まれた実感が宿る。

ピースの欠けたパズルを、残された手駒で必死に組み上げた日々。だが、その過程で培われた結束力は、完成形を迎えたときにこそ大きな意味を持つ。

ノーシード。厳しい山組み。だが、今年のハルヒでしか見せられないラグビーが、きっとある。

東海大学付属大阪仰星高等学校

「自律」という言葉と真正面から向き合った夏。

勝つために何をするか、ではない。勝つチームであり続けるために、どんな集団であるべきか。その問いが、この夏の仰星に投げかけられていた。

率いる湯浅大智監督は、試合を単なる結果の場として捉えていない。

「この一戦で、何に気づけたか。次に何をつなげられるか」。濃度を高めるための工夫も、随所にちりばめられている。

花園準優勝を果たしたのは昨年のこと。今年の代については、湯浅監督曰く「細かさはあるが、勢いに乗るのが苦手」だという。だからこそ、あえて細かく指示を出しすぎない。「レールを敷きすぎると、自分で考えなくなる」からだそうだ。

預ける勇気。失敗も含めて、選手自身に判断と責任を委ねる。それが、自律への第一歩だと考えている。

東佑太キャプテンは、今春の全国選抜大会に出場できなかったことで、全国レベルの経験がチームに不足していると語る。夏には全国7人制大会に3大会ぶりの出場を果たしたが、3大会ぶりゆえ現役生にとっては初出場と同義語。湯浅監督は「テントの張り方から教えました」と言っていた。

だから東キャプテンは、この夏を「ラグビーだけでなく、人として成長する時間」と捉えた。共同生活における時間の使い方から言葉遣い、身の回りの整理まで。生活の精度が、そのままピッチ上の精度につながると信じるからだ。

勢いではなく、主体性を。与えられる強さではなく、自ら築く強さを。

東海大大阪仰星が選んだ道で、7大会連続25回目の花園へと向かう。

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石見智翠館高等学校

いま一度、自分たちに問うた。

「石見智翠館のラグビーとは何か」と。

この春、石見智翠館は全国選抜大会出場を逃した。「本当に苦しかった」とは中尾槇之介キャプテン。「今年は弱いと言われ続けています」。その言葉から、目を逸らすことはない。

その悔しさを忘れることなく、チームは5月の中国大会で尾道高校にリベンジを果たした。

「“智翠館はすごい”と思われる姿を見せたい」。評価を覆すためではない。自分たちが積み重ねてきたものを、真正面から示すためだ。

中尾キャプテン自身、主将就任は初めての経験。もともと人前で多くを語るタイプではないが、それでも「やりたい気持ちが一番強かった」と言い切る背景には、昨年の悔しさがある。

昨季、花園登録メンバーから外れた。そのとき、「来年は自分がチームの中心になりたい」と心に決めた。

前主将の祝原久温(現・帝京大学1年)から託された言葉は、今も胸にある。「お前が言葉でチームを引っ張っていけ」。プレーで背中を見せた先輩とは違うやり方で、今年1年間、仲間と向き合った。

一方で、キャプテンとして日々を歩む間に、深い喪失も訪れた。

高校1年時に倒れた父は、今年の5月、帰らぬ人となった。

愛知県出身の中尾キャプテン。「帰りたい気持ちもあった」というが、だが晩年父から伝えられていた「お前は島根で頑張れ」と言われた言葉で踏みとどまった。

苦しい時間を支えたのは、「お父さんのためにやってやろう」という想い。「“しんのすけならできる”って、お父さんはずっと言ってくれていました。その言葉が今の自信です」

昨年見せられなかった花園で戦う姿を、今年こそ天国の父に届けたい。

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チームスローガンは「虹」。

“No Rain, No Rainbow”。雨が降らなければ、美しい虹がかかることはない。

土砂降りのような苦しい時間を全員で乗り越え、花園に虹をかける。その想いは、「千紫万紅」という四字熟語をもじった『戦士万虹』という創作の合言葉にも込められている。

苦しみを知るチームは、簡単には折れない。花園では、どれだけ自分たちのラグビーを信じ抜けるか。

今年の石見智翠館らしい虹を、花園に描こう。

尾道高等学校

今年、尾道が最も注力してきたのが「シャローディフェンス」だ。

敵陣で前に出て圧力をかけ、ターンオーバーから一気にトライへとつなげる。その形を「一番の目標」として掲げ、夏合宿では成功シーンを確実に増やすことができた。

「通用する場面は出てきている。充実感はあります」と佐藤麗斗キャプテンが手応えを滲ませたのは、まだ蒸し暑い最中のことだった。

今季の尾道を象徴する取り組みの一つに、「グローモデル」と呼ばれる評価軸がある。

チームとしてやるべき項目を一つずつ積み上げ、10点満点を目指す。成長を感覚ではなく数値として共有することで、チーム全体の視線を揃えようとしている。

その土台に据えられているのは「凡事徹底」。ゴミを拾う、挨拶をする。ラグビーとは直接関係のないように見える行動を、あえて大切にする。

「私生活の小さいところが、ラグビーの小さいプレーにつながると思っています」。この方針は、指導者から与えられたものではなく、リーダー陣が過去2年間を振り返り、生徒自身で決めたそうだ。そこに、尾道という学校の成熟ぶりがうかがえる。

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佐藤キャプテン自身が目指す姿も明確だ。

「支えることも、引っ張ることも大事。でもその前に、自分が一番に動きたい」。声で先導するより、行動で示す。率先して動き、背中で語るキャプテン像を思い描く佐藤キャプテン。

ラスト花園。一戦必勝を誓う。

徳島県立城東高等学校

「今年の夏は、とにかく“タフ”になる」

井颯太郎・共同キャプテンの言葉が、城東の現在地を端的に表した。

結果に一喜一憂するのではない。前日の試合で見えた収穫と課題を、翌日の練習で必ず修正する。その姿勢を、夏は貫いた。

勝っても、負けても、やるべきことは変わらない。翌日に“手当て”をする文化が、チームの芯にある。

「タフ(Tough)」。それは単なるフィジカルの強さではない。きつい状況でも声を出し続けること、コミュニケーションを止めないこと。城東が目指すタフさは、判断力と意思疎通を伴う強度だ。

「周りがきついときほど、しゃべり続ける。静かになった瞬間に、強度は落ちます」

息が上がる局面でも声を切らさない。その積み重ねが、試合終盤の精度につながると理解している。

リザーブメンバーが入ると、ピッチの雰囲気ががらりと変わる時間帯も少なくないが、だからこそ課題は「メンバーが変わっても同じ強度を保つこと」。誰が出ても、同じインテンシティでプレーし続けることが叶えば、まだ見ぬ年越しの景色は見えてくる。

「きつい中でも、やることがブレなければ流れは渡さない」と言ったのは、もう1人の共同キャプテン・近藤壮一郎選手。

派手な変化を求めるのではなく、強度の均一化と再現性を追い求める。嵐の中でも時を刻み続ける精密時計のように、部品が入れ替わっても狂わない集団を目指す。

一朝一夕で身につくものではないタフさ。花園では、その”タフさ”が城東の価値を証明する。

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福岡県立筑紫高等学校

春に行われた全国選抜大会での戦いを経て、筑紫高校はもう一度、原点に立ち返った。

合言葉は「走れタックル、魂のタックル」。魂を込めて前に出る、自分たちのラグビーだ。

「全国選抜大会で負けてから、もう一度タックルをやろうと決めました」

草場壮史キャプテンはそう振り返る。

敗因を戦術や流れの問題に押し付けるのではなく、向き合ったのはもっと根本的な部分だった。体の入れ方、足の運び、当たりの強さ。

練習で最も時間を割いたのは、タックルの基礎だった。

その土台として、フィジカル強化にも継続して取り組んできた。新チーム発足時から夏にかけて、体重が6キロ増えた選手もいるという。

「自分は増えていない方です」と笑いながらも「横も縦も、みんな本当に大きくなった」と語るキャプテンの表情には、手応えがにじんでいた。

その取り組みを支えているのが、OBの存在だ。リーグワンでプレーする卒業生が頻繁にグラウンドを訪れ、タックラーやサポートプレイヤーの注意事項を具体的に伝える。「来てもらうと、やっぱりタックルの話になる。足りないところをはっきり言ってもらえるのがありがたい」。筑紫の伝統は、言葉と背中の両方で受け継がれている。

菅平合宿では、セブンズ王者・國學院栃木とも対戦した。

「1点差でもいいから勝ちたかった。自信をつけたかった」と挑んだが「足が止まってくると、ハンドリング一つ、タックル一つが雑になる」とは長木裕監督評。その“雑さ”を、相手は逃さない。基本を丁寧に遂行し続ける力の差を、身をもって思い知らされた。

だから。花園では、「筑紫のタックル」を、どれだけ丁寧に貫けるかが鍵となるだろう。

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