試合概要
第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会 1回戦
【対戦カード】
石見智翠館高等学校 14-39 早稲田大学系属早稲田実業学校高等部
【日時】
2025年12月27日(金)14:30キックオフ
【場所】
花園第1グラウンド

「お父さんが一番良い場所で見てくれている。そう思って、良いところまで連れていってあげよう(勝ち進もう)とプレーしました」
石見智翠館高校キャプテン、FL中尾槇之介選手。
今年5月、父を亡くした。

昨年、全国屈指の選手層を誇った石見智翠館。主力の多くは当時の3年生たちで構成されており、中尾選手は昨季の全国大会でメンバー入りすることはなかった。
だから、これが初めての花園の舞台。
父に見せたかった、花園で戦う姿。
「お父さんが一番良い場所で見てくれている」
そう信じ、花園ラグビー場・第1グラウンドに立った。

敵陣深くでスクラムを組む前。「フォワード、いくぞ!」と声を張り上げた。
試合中は何度もボールを受け、鋭く切り込んだ。
点差が開いても、最後まで諦める姿勢を見せることはなかった。
「お父さんが見てくれていると思った。応援してくれている人たちの分まで。メンバーから外れた人たちの分まで。僕がリーダーとして、絶対にボールを持って引っ張っていかないといけない、とずっと思ってきました。それが力になったんじゃないかな、と思います」
この日、自身が見せたプレーの理由を、そう語った。

試合は、なかなか流れを掴めない苦しい展開だった。2度のキックチャージで相手に勢いを与えてしまう場面もあった。
「相手の圧力を受けて、そこで自分たちの思うようなプレーができなかった」
主導権を握れないまま、60分は過ぎていった。

率いる出村知也監督は、就任3年目。
今年の3年生たちについて問われると、「良い言葉が出てこない」と笑いながら、選手たちへの思いを語った。
「大人しいし、なかなか反応もない。でも・・・僕は、この代が一番好きな代ですね」
そう言葉にした瞬間。堪えていた涙が、溢れ出た。
「監督になってから初めて、1年生から3年生まで持たせてもらった代。思い入れも強かったですし、だからこそ本当に申し訳ないなって。非常に申し訳ない。良い思いをさせてあげたかったな、って思います」
「ひたむきにラグビーと向き合ってくれた。キツいことを言っても、信じてついてきてくれました。感謝しかないです」
苦しい道のりをともに歩んだ日々を思い出し、目を腫らした。

石見智翠館が今季掲げたスローガンは『虹』。
それは、苦しい時間を仲間と支え合いながら進み、その先にかける希望の象徴でもある。
「勝つことはできませんでしたが、石見智翠館らしいラグビーはできたんじゃないかな、と思います」
そう振り返った中尾キャプテン。
彼らが描いた虹は、決して消えない。次につながる色として、石見智翠館の歴史の中に刻まれていく。

