試合概要
第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会 1回戦
【対戦カード】
青森山田高等学校 12-48 慶應義塾志木高等学校
【日時】
2025年12月27日(金)14:30キックオフ
【場所】
花園第3グラウンド

慶應志木が信じ磨いたもの
黒と黄のマフラータオルを首に巻く人で溢れた第3グラウンド。
花園初出場を果たした母校・慶應志木を応援しようと、日本全国から、いや世界中からOBが駆け付けた。
ジャカルタにシンガポール。ラグビー部のOBだけではない。同校を卒業した、他部の人たちも多く応援にやってきた。

慶應志木が携える槍はただ一つ。
モール。
その一つの槍を磨ききれば、会場はどよめきに包まれた。
◇
先制トライを奪った。
トライ者は、12番・浅野優心キャプテン。
自陣で組んだモールの後ろで声を出し、前進させたところで展開。敵陣10m付近の左外で浅野キャプテンがボールを持てば、そのまま一心に駆け抜けた。
初出場、初ゲーム、初トライ。
慶應志木が花園に出場するために必要だった”ラストピース”の手と足によって、最初の5点は生まれた。

その後も終始、ボールを持てば接点で前に出る。
ラインアウトからモールで押し、スクラムでも存在感を示した。
2トライ目は、リモールからの12番・浅野キャプテンの突破。そこに合図あわせて走り込んだFB大澤蒼生選手が前進し、最後は左外11番・川田真広選手がエッヂでトライ。
3つ目はモールで押し切り、4つ目はペナルティからタップスタートを切りった5番・橋本瑛太選手がそのまま押し込みトライ。
5つ目もリモール。今度は12番・浅野キャプテンが最後尾でボールをもってグラウンディングした。

12と15とリモール。慶應志木は、徹底的にこの一つの戦術を貫いた。
グラウンドのどこからでもモールで進み、浅野キャプテンの優れた判断力で好機を決定機に変え、その少し外に控えるフルバックとの連動で的を絞らせることなく前進する。
誰かがヒーローになるわけではない。慶應志木のラグビーを、全員でやり通した。
後半も、出す武器は変わらない。
モール。リモール。キック。サイド攻撃。
試合を終えた時には、なんと積み重ねていた8トライ。
青森山田には後半8分、裏へのキックパスから11番・猪股大倭選手にトライを決められ、試合終了間際にも4番・内藤俊仁選手にトライを許したが、それでも十分なリードを得ていた慶應志木。
48-12で、見事花園初勝利を掴んだ。

初戦を白星で飾った慶應志木・竹井章監督は「出来すぎな感じ」と笑った。
モールの動かし方、強いランナーの当て方。「準備してきたオプションも出せた」と充実感を滲ませる。
「本当に嬉しいです。なかなか花園で勝つのも難しいと思ったのですが、今日はいい方向に出ました」
埼玉県予選決勝では苦しんだ、その経験が全国の舞台で花開いた。

武器を信じる抜くこと。信じた武器を、磨き抜くこと。そして、正しく武器を振り抜くこと。
慶應志木が体現したこの日のラグビーは、駆け付けた2,400人の胸を打った。
チームの大黒柱である、CTB浅野優心キャプテンは言う。
「僕たちは高校からラグビーをはじめた初心者が大半というチーム構成です。なのでこの3年間で形にできるものとして、モールという一つを決めてやってきました。コーチ陣の方をはじめ、慶應義塾大学関係者の方がサポートしてくれて『チーム慶応』として戦えたこと、1年生から3年生まで全員が花園を目指して戦えたことが勝因」と喜ぶ。
学年や経験の有無を超えて一つになったチーム。そして、それを支えるOBや関係者のサポートにも感謝した。
「これまでチームを作ってきてくださった方がいたからこその初出場で、その積み重ねが、結果として自分たちの代で実を結びました。花園初出場はもちろん嬉しいですが、そこで終わってはいけないとも思っています。埼玉県予選で優勝してから、もう一度チームで話し合い、『花園で2勝して正月を迎える』という目標に切り替えました。その中で、まず1勝目をここで挙げられたことは、チームとして良かったと思います」
まだまだ「黒黄」軍団の挑戦は続く。
次戦は12月30日、第2グラウンドで10時45分キックオフ。鹿児島実業と対戦する。

