「あとは任せた」3年生が託した想い。2回戦、第2グラウンド全5試合をレポート|第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会

12月30日、東大阪市花園ラグビー場で第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会の2回戦が行われ、16校が勝ち上がった。

第2グラウンドで行われた全5試合をレポートする。

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第2グラウンド

昌平 14-40 尾道

試合の最序盤、攻撃権を握ったのは昌平だった。

ファーストラインアウトを確実に確保し、ブレイクダウンでは最初のペナルティも獲得した。

その後敵陣深くで得たラインアウトチャンスからモールで前進を図ったが、ユーズイットのコールがかかる。ショートサイドでボールを受けたのは、2番・宮元崇キャプテン。しかしここでノックフォワード。ファーストチャンスは、ミスに終わった。

一方の尾道は、ブレイクダウンへのプレッシャーを巧みにかける。ラインアウトからフェーズを重ね、前半7分、5番・東本祥吾選手が先制トライ。続く11分にもラインアウトムーブから走り込んだ8番・沖建至郎選手がトライを奪い、コンバージョンゴールも成功。0-14とリードを広げた。

尾道の鋭いタックルに押し返され、思うように前進できなかった昌平。もともとはキックを交えながらゲームを組み立てるプランだったが、「相手スクラムハーフのプレッシャーが強く、キックを使えなかった」とFB宮本和弥バイスキャプテンは振り返る。

「アタックで下げられて、いざ蹴ろうとするとハーフがチャージに来る。うまく蹴れませんでした」

流れが変わったのは前半17分。宮元キャプテンが負傷交替を余儀なくされ、早々にグラウンドを後にする。

この出来事が、昌平に火をつけた。「全員にスイッチが入った」と宮本選手はいう。

8番・但木陽選手から13番・秋山粋慶選手へ。強い3年生たちが正面から体を当てに行った。

すると、昌平にチャンスは訪れる。

ブレイクダウンでペナルティを得ると、ラインアウトからモールを形成。崩れればフェーズアタックに切り替え、フォワードにこだわって前進を続ける。最後に押し込んだのは、1番・川端幹寛選手(3年生)だった。

15番・宮本選手のコンバージョンゴールもポールに当たりながら成功。7-14と点差を縮め、前半を終えた。

後半に入ると、昌平はキックを使い始める。

「1バックで相手の裏が空いていた」(FB宮本選手)。その状況を見逃さず、背後へと蹴り込んだ。わずかに50:22には届かなかったが、プレッシャーを与える一蹴りだった。

その後、敵陣深くで得たマイボールスクラム。8番・但木選手がボールを持ち出せば、1フェーズ後に4番・齊藤大也選手(3年生)が押し込んだ。

14-14。後半3分、昌平はついに同点に追いついた。

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しかしその5分後、尾道に追加のトライを許し14-21。

流れを引き寄せたい昌平は、後半12分。キックカウンターから勢いよく敵陣へと切り込んだ。ボールを持つは、1年時から主力として活躍してきたFB宮本選手。

しかしヘッドコンタクトを受ける。危険なプレーとして尾道にイエローカードが提示され、当該選手も負傷交替。試合はしばらく中断した。

ハイタックルを受けた宮本選手も出血のため一時退場。キャプテン、バイスキャプテンともに不在という、不測の事態が昌平を襲った。

その中で気を吐いたのが、ナンバーエイトの但木選手だった。

ハイボールを蹴り上げられると、自ら下がってから力強くキャリー。気持ちを示したが、しかし作ったブレイクダウンでペナルティを取られてしまう。

「リーダー陣がいない中で、自分が立て直さなきゃという気持ちが強く出すぎてしまいました」

尾道にはイエローカードが与えられており、昌平にとっては数的有利な状況。冷静に振り返れば外へ展開する選択肢もあったが、それでもフォワードのエースとしての責任感が、但木選手を前へと突き動かした。

フッカーのキャプテンを欠く中、ラインアウトのスローイングも担当した但木選手。想定外の役割だったが、「何回か練習で合わせていた」ことで代役を引き受けた。

後半15分には、FB宮本バイスキャプテンが処置を終えグラウンドへと戻ってきた。だが終盤、立て続けに3連続トライを許す。

気付けばスコアは14-40。

昌平史上初となる3回戦進出は、叶わなかった。

後半17分。13番・秋山選手が、23番・神山暖武選手(1年生)と交代する時のこと。

「あとは任せた」

そう言って背中を叩き、グラウンドを後にした。

3年生から1年生へ託された、「花園で年を越す」という夢。

「今年は下級生でメンバー入りしている選手も多い。まずは県の新人戦で優勝し、全国選抜大会を経験すれば、今年以上の代がつくれる。そのために3年生も協力します」

そう前を向いた宮本選手。

昌平の挑戦は、これからも続いていく。

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慶應義塾志木 31-17 鹿児島実業

「ほんと、楽しいんだけど!」

何度も組む慶應志木のモールに、観客席からは喜びの声があがった。

「押せ! 押せ!」

楽しげな手拍子も、自然発生的にスタンド中へと広がっていく。

武器を磨ききれば、見る者をも楽しませることができる。慶應志木は、そのことをプレーで示してみせた。

31-17。

全国高校ラグビー大会初出場の慶應志木は2連勝を飾り、花園での年越しを決めた。

全国ベスト16。

だが、ノーサイドの笛が鳴っても、選手たちの表情に大きな歓喜はなかった。

「もっと喜ぶかと思ったんですけどね」

そう話したのは、竹井章監督だ。

「自分たちのプレーができなかったからじゃないですか。それも成長だと思います」

静かに、目を細めた。

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「ずっと目標にしていた花園年越しができて、本当に嬉しいです。でも、モールが通用しない部分もあった。そこは悔しい。中一日で修正します」

そう語ったのは、フッカーの李知成選手。

2019年のラグビーワールドカップをきっかけに、高校入学と同時にラグビーを始めた。中学までは卓球など別の競技に打ち込んでいたが、「激しいラグビーに憧れた」のだという。

モールを武器とするチームにおいて、フッカーの役割は重大だ。ラインアウトのスローイングは、まさに生命線。

「最初は全然ダメで、スローイングばかり気にして、他のプレーにも集中できなかった。でも今は、練習したことが出ると信じて、良いイメージだけを持ってプレーするようにしています」

年を越した今だからこそ、言葉にも実感がこもる。

「一つひとつ目的を持って、真面目に取り組めば、目標は達成できる。これからも変わらず、真面目にやっていきます」

いよいよ舞台は、花園第1グラウンドへ。

「武器はモール。組めば前に進める。想定される対策にも対策をして、みんなで話し合って挑みたいです」

「僕自身も、高校2年の時に3回戦、3年の時はベスト8と、花園で年を越しています。だから、正直『年は越すだろうな』と思っていました。生徒たちにも『年は越すからな』って伝えていましたしね。山組みも、運はありました」

竹井監督は、胸にあった“予感”をそう明かす。

「今日はスクラムハーフが出しゃばりすぎて失敗しました。でも、失敗しても勝てた。地力がついてきた証拠だと思います」

大会中の成長をそう語った。

次戦の相手は、東福岡。

“陸の王者”が、“ラグビー界の王者”へと挑む。

「自分たちがやってきたことが、どう表れるのか。そして、その結果をどう大学ラグビーにつなげていくのか。それを測るきっかけになる試合です。チャレンジしまくるだけ。できなかったことがあれば、後輩たちはそれをずっと練習すればいい。そうやって、文化をつくっていきます」

挑戦を貫く。

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