「やっと、正月を花園で迎えられるよ。宮崎には帰れんけど、ごめんね」|第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会

試合前に、必ず読み返す一通のLINEがある。

「来年は、家族全員で試合を見に行くからね」

送り主は、愛する母。

それから空を見上げ「行ってきます」と誓い、毎試合、グラウンドへと向かう。

宮崎県立高鍋高等学校のナンバーエイト、石川晄ノ介選手。

身長172センチ、体重90キロ。恵まれた体格を武器に、中学時代には相撲の団体戦で宮崎県1位に輝いた実績を持つ。

今から丸1年前の、昨年の全国高校ラグビー大会でのこと。

当時九州チャンピオンだった大分東明と2回戦で対戦した高鍋は、強いフォワード力を武器に26-26の同点を演じた。

しかし抽選の末、3回戦進出は叶わず。悔し涙を流した。

その時も背番号8を背負い、フル出場していた石川選手。

だから、今年の2回戦前夜の気持ちを正直に明かした。

「本当に、前日の夜からずっと不安で。プレッシャーがあって・・・。松山聖陵には秋に一度負けていたので、みんなには言っていなかったんですけど、正直怖かったです。本当に、プレッシャーで・・・」

そう語ると、大粒の涙がこぼれた。

「でも、第1グラウンドに立ったら『やらなきゃいけない』って気持ちになりました。覚悟が決まりました」

この日も石川選手は、部員72人を代表する一人として、60分間グラウンドに立ち続けた。

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涙の理由は、もう一つある。

高校1年生の冬。母は、この世を去った。

冒頭に記したLINEメッセージは、母から届いた最後の言葉だ。

「来年は、家族全員で試合を見に行くからね」

だから、母は今も見守ってくれている。

そう信じているのではない。そう、感じることができる。

「今日もずっと、すごいタックルをくらって痛かったんですけど。でも、観客席や(1回戦で)ケガしたキャプテンを見たら『自分がやらんと』って思えた。タックルをくらったら自信もなくなったんですけど・・・」

一度、言葉を詰まらせる。

「でもそこで観客席を見て、家族の顔を見て。お母さんを思い出して。だから、頑張れました」

3年間で初めて迎える、花園での年越し。念願だった3回戦進出を果たした今、母に伝えたい言葉がある。

「やっと、正月を花園で迎えられるよ。宮崎には帰れんけど、ごめんね」

——もう少し、待っていて。正月は、花園で頑張るから。

そう静かに語ると、石川選手は小さく、こう結んだ。

「・・・喜んでくれるかな、って思います」

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