「焦って空回りするな」東福岡が事前に準備したこと。東海大相模はラストモールに涙「やりきれない」|第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会

東福岡

最後まで揺らぐことのなかったディフェンスと、積み重ねてきた“ベーシック”が、勝利を引き寄せた。

スティールが冴えたのは、花園3年目となった7番・古澤将太選手。8番・須藤蔣一キャプテンのボールキャリーは随一の突進力を見せた。

12番・半田悦翔選手と13番・八尋奏選手のランは前進を生み、14番・平尾龍太選手のディフェンスは要所で流れを断ち切った。

リザーブから出場した2年生ハーフ団、SH橋場璃音選手とSO川添丈選手は、厳しい時間帯にテンポと変化をもたらし、試合の呼吸を整えた。

東福岡の強さの根底にあるのは、「当たり前のレベル」を徹底的に引き上げてきた日々だ。

ボールキャリー後のロングリリース。こぼれ球への一歩目。全力でのキックチャージ。

誰にでもできることを、誰よりも本気でやり切る。その基準を、東福岡は下げなかった。

昨年、準々決勝で東海大大阪仰星に敗れたところから始まった、今季のチーム蔣一。

「去年の先輩たちが根を張ってくれたから、自分たちは壁を壊せた」

準々決勝での勝利を挙げたあと、須藤蔣一キャプテンは、そう感謝の言葉を紡いだ。

困ったら、ディフェンス

勝敗を分けるのは、派手なトライやビッグプレーだけではない。

東福岡が今大会で示しているのは、「当たり前」をどこまで高いレベルでやり切れるか、という問いへの一つの答えだ。

須藤キャプテンは試合後、何度も同じ言葉を口にする。

「特別なことはやっていない。ただ、当たり前のことを、当たり前にやり続けただけです」

花園に入る前の練習試合では、ラインオフサイドなどのシンプルな反則が課題として浮かび上がった。流れを止め、相手に勢いを与えてしまう“もったいないミス”。そこからチームは、細部を詰める作業に徹底して向き合った。

ラックの最後尾より、さらに一歩下がって構えること。誰か一人ではなく、全員が同じ立ち位置を意識すること。

その共通認識が徹底された結果、準々決勝ではラインオフサイドを限りなくゼロに近づけることができた。

「簡単なことだけど、全員でやり切るのは簡単じゃない」

須藤キャプテンのその言葉が、この試合を端的に表す。

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苦しい時間帯も、もちろんあった。流れが悪くなり、判断に迷いが生まれそうになる瞬間もあった。

そんな時、チームが立ち返る場所ははっきりとしている。

「困ったら、ディフェンス」

藤田監督から繰り返し伝えられてきた言葉だ。

ディフェンスを楽しむこと。それが東福岡の強さへとつながる。

その象徴として表れたのは、試合最後のモール攻防戦。トライを取られたら負けという状況であったが「一人ひとりが、“絶対にボールを取り返す”という意識でディフェンスをしていた」という須藤キャプテン。

その執念が最後にマイボールを呼び込み、勝利を決定づけた。

準決勝の相手は、京都成章。

3年前、7度目の王者に輝いた時にも準決勝で京都成章と戦っていた。しかし現役選手たちにとっては、今年の全国選抜大会準決勝で敗れた思い出の方が、強く残る。

「相手がどこであっても、やるべきことは同じ。ペナルティや単純なミスをなくし、自分たちの基準を下げないこと」(須藤キャプテン)

その一点に覚悟を込め、1月5日の舞台へと挑む。

今の自分にできることを

前半から続いていたリズムが崩れ、点差も広がり始めた後半中盤。

橋場璃音選手はスクラムハーフとしてピッチへと送り出された。

藤田雄一郎監督から掛けられた言葉はシンプルだった。

「パス出しで、アタックのテンポを作れ」

求められたのは、突破でも一発のビッグプレーでもない。試合の呼吸を整え、流れを引き戻す役割だった。

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その答えは、ほどなくして訪れる。

味方が粘り強くフェーズを重ね、アドバンテージを得た場面。目の前には相手フォワードの分厚い壁があった。だが相手の視線は、自身に向いていない。

「行ける」

一瞬の判断だった。

迷いなく加速し、ラックサイドへと踏み込む。そのままトライラインを越え、逆転トライを決めた。

2年生の橋場選手。昨年は1年生ながらモスグリーンの背番号10をまとい、花園ラグビー場に立っていた。

しかし今年は控えのスクラムハーフ。立場が変わったことに、葛藤がないわけではない。

「悔しさはありました。でも、今の自分にできることをやるしかない」

スーパーサブとして出場し、流れを変える。その役割を全うした先にあったのは、昨年越えられなかったベスト8の壁を超えたという結果だった。

「去年はベスト8で負けていたので、準決勝に繋がるトライを自分で取れたことが嬉しいです」と喜びを口にする。

群馬県出身の橋場選手。強い東福岡に憧れ、自ら関東を飛び出したからには「関東のチームには負けたくない」との想いは、プレーに滲んだ。

東福岡という名前があるからこそ、どの相手からも徹底的にマークされる。「それは、自分たちが認められている証拠」だと受け止め、重圧を力へ変えてきた。

「りお」という名前には、「瑠璃色に輝いてほしい」という願いが。

チームという大きな歯車の中で、回転を速める潤滑油であり、勝負どころで火を灯す点火ヒューズ。日々磨き続けた“当たり前”が、決定的な瞬間に輝いた。

準備された心

最も警戒していた、東海大相模の強力なモール。サイズがあり、圧力をかけ続けてくる。そこで主導権を握られれば、簡単には流れを取り戻せない。

実際、試合はその“想定内”をなぞるように進んだ。

モールで押し込まれ、相手のペースにはまり、一時はリードを許す展開。だが、ベンチは慌てなかった。

「焦って空回りするな」

「ラストワンプレーで点がひっくり返るか、ひっくり返される試合を想像しなさい」

事前のミーティングで、藤田雄一郎監督はそう選手たちに伝えていたという。

逆転も、再逆転も起こり得る。その覚悟を、あらかじめ共有していた。

だからこそ、スコアが動いても、東福岡の選手たちは崩れなかった。表情は落ち着き、次の一手に集中した。

準々決勝で何より際立ったのは、“技術”ではなく“準備された心”だった。

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流れを変えた決断もあった。試合中盤、藤田監督は一つのカードを切る。3年生同士のハーフ団から、2年生ハーフ団へと変更した。

実際にその判断が功を奏し、2年生スクラムハーフが逆転のトライを決めた。

東福岡のエースナンバー、背番号8を背負う須藤キャプテンのプレーは、『主将』の名に相応しきプレーそのもの。

低い姿勢で当たり、倒れても脚を動かし続ける。確実にゲインを生み、相手ディフェンスを後退させた。

中途半端なオフロードは狙わず「困ったら、レッグドライブしろ」と藤田監督は伝えていたという。

その言葉どおりのプレーでチームに勢いをもたらした。

接戦を制し、2大会ぶりの準決勝進出を決めた東福岡。

荒波に揉まれることを、最初から想定していた船は強い。激しい揺れが来ても、進路を見失わない。

この日の東福岡は、まさにそんな戦い方。

正確な海図を示し、必要なタイミングで推進力を注ぎ込む。藤田監督らスタッフ陣の準備と決断力が、選手たちを迷わせなかった。

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