桐蔭学園
後半14分。
東大阪市花園ラグビー場に、HO堂薗尚悟キャプテンの負傷交替が告げられた。
驚きの声が漏れ聞こえる。
スコアは、7-10。桐蔭学園がわずか3点をリードしていた時のことだった。

タックル時に右肩を負傷した堂薗キャプテン
ピッチに送り出されたのは、2年生の木俣蒼司郎選手。堂薗キャプテンに代わり、ゲームキャプテンを託されたFL前鹿川雄真選手は、こう振り返る。
「準々決勝・東海大大阪仰星戦では、メンバーが交代した後半終盤に自分たちのやりたいラグビーができなかったことが反省点でした。だからミーティングでは『堂薗がいなくなったらどうする?』という想定もしていたんです。主力が欠けることを考えていたからこそ、木俣も自信を持って入ってくれたと思います」
とはいえ、木俣選手はまだ2年生。前鹿川選手は、ピッチに入る後輩にこう声をかけた。
「想定どおりだから。目の前のプレーを、一つずつやっていこう」
前鹿川選手は言う。
「良いか悪いかは分からないですけど、ちゃんと(堂薗キャプテンがピッチからいなくなる)想定をしていた。その“準備の深さ”が出たと思います」

かわって入った木俣選手。今季のU17関東ブロック代表では主将を務めていた
だが試合は、そこから再び揺れる。大阪桐蔭に2トライを許し、桐蔭学園も1トライを返すが、スコアは21-17。4点のビハインドで最終盤を迎えた。
ラストワンプレーで逆転しなければならない状況。その時、前鹿川選手の頭にあったのは「想定してきた景色」だった。
「ビハインドでラストワンプレーを迎える状況は、考えていました。今日は1点を争うゲームになるだろう、多分最終的にはビハインドの状況だと思う、という話もしていました。だから『ああ、こういう試合になるよな』って(笑)」
だから仲間に伝えたのは、特別な言葉ではない。
「顔を上げてタックルすること。顔を上げてボールキャリーして、パワーフットして、次の2人目がしっかりラックに入る。目の前の点数に気を取られるのではなく、いつもの練習を思い出してプレーしよう、と伝えました」

後半36分。
その“積み重ね”が、ついに実を結ぶ。
猛攻の末、最後は3番・喜瑛人選手がポール下へ押し込み、逆転トライ。桐蔭学園が激闘を制した。
「必ずやってくれると思っていた」
仲間を信じ、ピッチを託した堂薗キャプテンは、その瞬間、大粒の涙をこぼした。

手を合わせ、祈り見ていた堂薗キャプテン

向かうは、3大会連続の決勝戦。
泣いても笑ってもラストマッチ。最後の60分へと挑む桐蔭学園。
「決勝戦だからといって何か変わることはありません。相手をリスペクトしながらも、60分をどう組み立てるのか。自分たちは得点力がないし、ミーティングの深さもまだまだ全然足りません。次はもっと深い準備をしていきたいです」(前鹿川選手)
いざ、3連覇へ。

10話目の逆転
ボールを持てば、強い。
天性のボールキャリーセンスを持つ3番。
後半26分、大阪桐蔭に逆転を許した直後のハドルで、喜瑛人選手はこんな言葉を仲間に投げかけていた。
「ドラマって、だいたい10話じゃないですか。だから『10話で勝ったらいい。逆転された今は9話や。10話目で俺たちが逆転したらいい』と話をしました」
まだ終わっていない。ファイナルエピソードはこれからだ、と。

フォワードが走り勝つ。強力なバックスを生かすためには、フォワードが前に出続けなければならない。
「最後はフォワードにこだわろう。走り勝とう」
どれだけ苦しい時間帯でも、プライドを持ってやり続ける。その覚悟を、喜選手自身が繰り返すボールキャリーで体現した。
そして迎えた“第10話”。桐蔭学園は、逆転勝利をつかみ取った。
ドラマの主人公は、そう、喜選手自身だった。

戦いは、決勝戦へと向かう。一つのドラマが終わった今、決勝戦はどんな物語になるかと問われると、喜選手は笑ってこう返した。
「番外編ですね。劇場版(笑)」
ラストトライの場面で肩を痛めていたが、決勝戦については即答する。「出ます。出ないと、やっぱ劇場版は!」
周囲を和ませた言葉のあと、しかし表情を変え、次の言葉を続けた。
「でも、もう笑いはないです。目の前の一戦一戦に集中した結果が、優勝につながる。集中して、やり切ります」
物語の続きを、自分たちの手でハッピーエンドにするために。ラストマッチへと向かう。


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