準決勝 正智深谷v熊谷【第100回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選】

試合展開

正智深谷:モスグリーンジャージ、熊谷:黒ジャージ

「2時20分から、104で。」

試合終了後、あちこちを駆け巡ったこの言葉。

午後2時20分から、104会議室で、決勝進出をかけた抽選会が行われる。

 

***

準決勝、3試合目。2試合目の深谷ー浦和戦が異様な盛り上がりをみせた直後の試合は一転、ゆっくりとした、静かな雰囲気の中行われた。

実力は、拮抗している。あとは、勝ちたい「気持ち」の勝負。気持ちを、見せて欲しい。

最初のトライは熊谷。前半14分、ラインアウトモールからラックを積み重ね、最後は5番・石井裕人選手が押し込んだ。プレイスキッカーの15番・五十嵐大悟選手がコンバージョンを狙うも、残念ながら軌道は逸れる。

0-5、ロースコアで前半を折り返した。

 

勝負の後半。先にスコアを奪ったのは、正智深谷だった。

後半3分。ロングキックから攻撃を重ねると、インゴールまで5mの地点でラインアウトモールを組み、最後は7番・田口大揮選手が押し込んだ。5-5、後半早々試合を振り出しに戻す。

その5分後にも、正智深谷にビックプレーが飛び出した。

敵陣10m付近で獲得したラインアウトを、最手前にいる9番目掛けてスローイングするサインプレー。そのまま9番・茂木吉平選手が右サイドを駆け上がり、インゴール右隅にトライ。難しい位置からのコンバージョンキックも、10番・大竹選手がしっかりと成功させる。

後半8分、12-5とこの試合初めて正智深谷がリードした。

熊谷戦に向け用意していたかのような、ラインアウトのスペシャルプレー。試合後、熊谷の横田監督も永嶋キャプテンも舌を巻いた。「正智深谷にしてやられました」。

しかしながら、正智深谷の松本監督曰く「あれは事前に用意していたプレーではない」という。「前半で熊谷のラインアウトの穴に気が付いたんです。だけど、ハーフタイムで他のことを生徒たちに話しているうちに、すっかり伝え忘れてしまっていて(笑)でも、僕が言わなくても生徒たちは自分たちで気付いたので、さすがだと思いました。」ラグビーナレッジの高さを伺わせる瞬間だった。

 

熊谷サイドから聞こえる、「楽しんでこうぜ!」の声。そしてベンチからは「同点でいいんだぞ」という指示。「変に取り急いだり、普段やらないことをやるよりも、冷静に試合を運んで欲しいという思いだった。」と、横田監督は振り返る。

 

30分をちょうど過ぎた頃、ボールは正智深谷の手に渡っていた。熊谷、なんとしてももう一度ボールを奪い返さねば。

そんな気持ちを全面に出した、気合いのこもったタックルを見舞ったのは、試合前に横田監督が「今日のキープレイヤー」と名前をあげていた12番・村山選手。正智深谷のノットリリースザボールを誘うタックルで、ボールを取り戻した。

タッチに蹴り出した先は、敵陣インゴールまであと10mもない所。ラインアウトから一度はモールを形成するも、ボールを持っていた8番・小柳竜晟選手が飛びだす。インゴールまで、あと30cm。

ジリジリと中央に寄りながら2フェーズ重ねる熊谷。最後、ポールの左脇に意地で押し込んだのは、この試合タックルにキャリーに1人分以上の働きをした4番・川﨑正太郎選手。仲間の想いを背負った、力強いトライだった。「試合であまりトライをしたことがなかったので、ここぞという場面で取れてよかった。」真後ろには、永嶋キャプテンがサポートについていた。

負傷退場したプレイスキッカーに代わり、コンバージョンキックを蹴るのは10番・髙田選手。前半、右肘を逆方向にひねり満身創痍の状態で60分戦い抜いていた。「最後までやり切ろう、と思って。交代することは考えていなかった。」同点に追いつくか否かの、大事な大事な2点。「外したら終わりだ、と思ったらめちゃくちゃ緊張しました」と振り返ったが、しっかりとゴールポストの間を通る。

そしてスコアボードに表示された、12-12の数字。

決勝への挑戦権は、抽選に委ねられた。

***

2時20分に、104会議室に集まる両校のキャプテンと監督。まずは予備抽選で、本抽選を引く順番を決める。

1番の札を引いたのは、熊谷の永嶋キャプテン。永嶋選手が、机の上に並んだ2つの封筒から、先に一つを選んだ。続いて、正智深谷の大竹キャプテン。

 

ーーー少し経った後、抽選会場から先に姿を現したのは正智深谷。大竹キャプテンの後ろを、数メートル離れて松本監督が続く。

大会運営者からアナウンスが入った。「抽選の結果、決勝に進むのは正智深谷高校です」

 

 

最後、同点に追いついた熊谷高校。決して負けたわけではない。決勝に進めなかっただけ。ただ、もうこのメンバーでラグビーをすることはなくなってしまった。

横田監督は言う。「もう1試合やりたかったですね、こいつらと。今日終わると思っていなかったんで、正直。」

もう少し、熊谷のラグビーが観たかった。

***

 

試合後、熊谷の永嶋キャプテンから「本当は、優勝してみんなの前で言いたかったんですけど」と前置きした上で語られた言葉をお伝えする。

「開催も危ぶまれた中、いろんな方々のご尽力のおかげでこの大会が出来た。動いてくださった全ての人に感謝しています。応援に来てくれた保護者の方々、送り出してくれた学校・生徒のみんな、OBの方々、本当に感謝しかないです。本当にありがとうございます。」

スタンドオフの髙田選手は、これでラグビー生活を終える予定だった。だが、試合が終わった後に「大学でラグビーするのもいいかな、って」と胸の内を明かしてくれた。これには仲間も驚き、笑顔があふれる。指定校推薦で関東圏の大学を受験中だ。もしかしたら、この先もメンバー表に「髙田虎太郎」の名前を見れる日が来るかもしれない。

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