ルーキー、早慶戦デビュー 慶應v早稲田【関東大学対抗戦Aグループ 第6週】

80分の物語

慶應:黒黄ジャージ、早稲田:赤黒ジャージ

13:30を少し過ぎた頃。会場内では両チームの選手たちがアップをし、また続々とラグビーファンが会場入りする中、場内アナウンスが響いた。

「本日は11月23日です。早慶戦の日がやって参りました。」新型コロナ対策のため、贔屓のチームや選手に声援を送れないこと、それから校歌(塾歌)演奏もないとの注意が入る。

 

いつもとは違う早慶戦、だけど変わらない伝統の早慶戦は、曇天の中早稲田ボールでキックオフした。

試合序盤は、天気に呼応するかのようになかなかスクラムが組めない。ボールも落ち着かない。いつもなら、そんな選手たちを後押しするかのように客席から大歓声が聞こえるはずだが、今年は選手たちの声が会場中をこだまする。

 

この日最初の得点は、慶應義塾によるペナルティゴール。風上を活かし前半は敵陣で2度、PGを選択した。

キッカーは、今春兵庫県の報徳学園高校から入学した山田響選手。伝統の一戦でタイガージャージの15番を背負ったルーキーは、「大舞台が好き」と豪語する。「大勢の観客がラグビーというスポーツに夢中になってくれる場所があって、嬉しく思う。」山田選手の左足は、この日集まった9,531人を夢中にさせた。

 

対する早稲田は、なかなか攻め切れない時間を過ごしていた。前半20分にラインアウトを起点としたトライを奪うものの、スクラムではアーリープッシュが続きペナルティを取られてしまう。

そんな中、チームの流れを変えたのは最上級生・古賀由教選手。

慶應の15番・山田選手と早稲田10番・吉村紘選手が互いにロングキックを蹴り合う中、吉村選手が少し短めのキックを蹴る。深く構えていた慶應陣は意表を突かれ、ボールをワンバウンドさせる。その一瞬の隙を狙って飛び込んでいったのが、早稲田11番・古賀選手。あっという間に味方もなだれ込み、ターンオーバーに成功した。そこから得意の展開ラグビーで左サイドにボールを運び、早稲田のルーキー7番・村田陣悟選手を一度当てると、再び逆サイドに大きく戻す。右端で待ち構えていた14番・槇選手(2年生)がボールを受け取ったら、そのままトライ。

4年生の気持ちが込められたビックプレーは、仲間を鼓舞する。

アカクロジャージで唯一先発を任されたルーキー・村田選手について、丸尾キャプテンは言う。「体の強さに運動量、アタック・ディフェンスともに激しいプレーができることが魅力。堂々としていますよね。」先輩の背中を見て、伝統を学ぶ。

 

後半32分には、昨年花園で全国優勝を成し遂げた桐蔭学園高校のキャプテン・伊藤大祐選手が満を持して登場した。古賀選手や桐蔭学園の1学年先輩・小西泰聖選手も笑顔で迎え入れる。

記念すべきファーストタッチは、ラインアウトから出たボールを9番・小西選手を経由し供給されたもの。落ち着いてキャッチすると、順目にパスを出す。もう何度も早慶戦を経験しているかのような、不思議な空気感が彼を包んでいた。

ビックプレーを見せたのは、その4分後。

自陣10m付近でボールを受けた伊藤選手は一気に右サイドを駆け上がり、あれよあれよという間に敵陣5mまで迫っていった。およそ50mのランで鮮烈な対抗戦デビューを飾るも、「今日のプレーは50点くらい」と語ったのは伊藤選手。自分のレベルの低さがわかったので、チームにマッチできるようもっと頑張りたいと言う。

伝統の一戦でピッチに立てたことを嬉しく思う一方、現状に満足しない向上心。アカクロの道のりは、まだまだ始まったばかり。これからの進化が期待される。

 

伝統の一戦を11-22で勝利したのは、早稲田大学だった。「学生にとっては一生に一度の早慶戦。試合ができたこと、そして勝利できたことを嬉しく思う。(早稲田・相良監督)」

マン・オブザ・マッチに選ばれたのは、早稲田大学10番の吉村紘選手(2年生)。名前が呼ばれた瞬間、左隣にいた下川バイスキャプテンに頭をポンポンとされ、丸尾キャプテンに笑顔で迎えられながらMOMのメダルを手にした。

 

「拍手による応援、ありがとうございました。」最後は、場内アナウンスを担当した四家さんによるラグビーファンへの御礼で締め括られた。

いつもと違うシーズン。ラグビーを出来ること、そして何よりラグビーを見れることがこんなにも幸せなことなのだと、改めて気付くシーズン。

試合終了後、「やっぱりラグビーおもしろいねぇ!」とお父さんに向かって笑顔で話す、小学3年生くらいの男の子とすれ違った。

そうだ。やっぱりラグビーは、面白い。

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