80分の物語
会場に入ると、コテコテの関西弁がグラウンドから聞こえてくる。
あ、花園に来たんだーーー
今年のスローガンは「100年先も、熱い冬。」全ての選手が、熱い冬を過ごせますように。そんな祈りにも似た、静かな緊張感に花園ラグビー場一帯は包まれていた。
キックオフ30分前。
練習グラウンドから少し離れた場所にある花園第3グラウンドにも、ものすごい声の塊が響き始めた。
3グラウンドで戦う全6校が一同に練習するとあって、選手たちの気合いは少し離れた第3グラウンドにもゆうに届く。
1回戦の1日目、第1試合で戦う6校のうち、初出場は埼玉県代表の川越東のみ。この特殊な「花園」という場に飲み込まれていないか、少し心配になる。
9時42分。先にグラウンドへ姿を現したのは、明和県央。遅れること4分、川越東もスパイクの音を響かせながらベンチへ入った。
「集まって深呼吸しよう」と声を掛けたのは、川越東の江田優太キャプテン。「自分の役割を、一人一人が果たそう。」
川越東から「声出していこうぜ!」と元気な声が響けば、明和県央は「パッション!」の叫び声とともに一列で走り出した。
1st 25mins
10時ちょうど、記念すべき100回大会の口火を切るキックオフの笛が吹かれた。
明和県央ボールのキックオフで試合はスタート。明和は早速、14番・西郷光選手がボールを持って右サイドを駆け上がると、川越東は両フランカーのタックルでタッチに押し出す。
最初のマイボールラインアウトを成功させた川越東は11番・江田選手にボールを渡すと、グラウンド中央から強烈なフィジカルで敵陣22m付近まで一人で進む。開始数分で、会場をざわつかせた。
その後、フェーズを重ねながらじわりじわりと相手インゴールまで迫ると、最後は11番・江田キャプテンが相手選手の足の合間からボールを地面につける。
15番・加藤健人選手のコンバージョンも成功し、7-0。前半2分、花園初トライ・初コンバージョンゴールを決める。
力強いBK陣の推進力を武器に、このまま川越東のペースで試合が進むかと思われた。
が、相手はラグビースクール出身者が大半を占める猛者。前半6分。ハーフウェイ付近で川越東にオフザフィートの反則があると、明和県央はペナルティタッチで着実にエリアを前へと進める。そしてゴール前10mでのマイボールラインアウトからモールを繰り出せばそのままFWがワンパックで一気に進む。最後は2番・佐藤惟蕗選手が押し込みトライ、早々に7点を奪い返した。
とにかくよく声の出ていた明和。豊富なコミュニケーション量で、その後も川越東を圧倒する。
コミュニケーション力だけではなく、FWの差も歴然だった。体重差では、FW8人の平均体重に大きな差はない。むしろ川越東の方が、合計で10kg程勝っている。だが、モール・スクラム含め、セットピースは明和県央が制した。
前半24分、明和県央は敵陣深くでラインアウトモールを2回繰り返すと、ラックから右のショートサイドに持ち出した3番・内山玄達選手が堂々のトライ。
明和県央が、7点のリードで折り返した。