明治サイド
苦しい80分だった。
こんな大差がつくとは、会場につめかけた9,003人のファンのほとんどが思っていなかったのではないだろうか。もちろん、選手たちだって。
なかなか、自分たちのラグビーをさせてもらえなかった。とにかく出足が早い天理の接点へのプレッシャー。
「セットして前に出るディフェンスを明治はしたかったが、セットが完了する前にノミネートできないまま相手にアタックさせてしまった。セットは出来ていない、前にも出れていない、の連鎖。やりたいことをできなかった」と語ったのは、箸本キャプテン。最後まで天理に対応しきれなかったことを悔やんだ。
後半13・16分と立て続けにトライを奪った時は、逆転の二文字が脳裏をよぎった
試合終了まで残り5分。天理陣深くでスクラムを組むと、秩父宮の大型スクリーンは、スクラム最後尾に立つ箸本キャプテンの表情を捉えだすようになった。
そこに映し出されたのは、優しくて、柔らかくて、穏やかな箸本キャプテンの姿。残された時間を惜しみながら戦うような、そんな姿がアップで何度も映し出される。
「4年間を振り返っていた。明治でグラウンドに立たせてもらって、自分を成長させてもらえた。明治大学に感謝という気持ちが強かった。応援してくださった皆さんに、そういう(泣いた)顔を見せたくなかった。最後まで自分らしさを貫くことを意識していました」と話した箸本キャプテン。
彼の穏やかな表情に、見ているこちらの涙が止まらなくなる。
最終盤でのスクラム。写真中央が箸本キャプテン
もう結果は見えているが、それでもスクラムの明治として負けるわけにはいかないラストスクラム。意地だった。
ベンチから「メイジ、スクラム!!」の声が飛ぶと、後押しされたかのように天理のコラプシングを誘った。レフェリーの手の上がった方を確認した7番・繁松哲大選手(4年生)は、手を叩いて天を仰ぐ。
そして。獲得したペナルティチャンスに明治が選択したのは、やはりスクラムだった。「スクラムにこだわる、ということ。明治らしい前に出る気持ちで、全員の気持ちでスクラムを選択した(箸本キャプテン)。」
最後まで明治らしい愚直な『前へ』の姿勢は、80分通してグラウンドで表現された。
ペナルティでスクラムを選択する直前、FWで小さく円陣を組んだ。涙を見せるLO片倉康瑛選手(写真中央)と、その後ろで穏やかな表情を浮かべる箸本キャプテンのコントラストがより涙を誘う
ノーサイドの笛が吹かれると、箸本キャプテンは走って真っ先に整列ラインに戻り、ともに戦った仲間をハイタッチで迎える。
『箸本無双』という言葉まで生まれた今シーズン。何フェーズも連続で体を当てに行くその仕事量と、仲間を支えるキャプテンシーは、間違いなく次の代へと引き継がれていくはずだ。
最後のスクラムを見守る、山沢京平バイスキャプテン
最後にノックオンをしてしまった、そして今日はプレイスキッカーとしてなかなか決められなかった、1年生の廣瀬雄也選手。期待されていたであろう活躍をさせてもらえなかった、セブンズ日本代表候補の2年生・石田吉平選手。
グラウンドを去るその瞬間まで、後輩たちの涙は止まらなかった。
膝をつき、涙を流した。何人にも肩を抱いてもらった、11番・石田吉平選手
フォトギャラリーはこちら