60分の物語
今大会が花園初出場だった4チームのうち、1回戦を突破したのは四日市工業1校のみ。それも、完封での勝利だった。
2回戦の相手は、30大会連続出場を誇る石見智翠館。
花園を知り尽くした相手にどこまで迫れるか、注目だ。
何時も選手たちのことを笑顔で話してくれる渡邊監督(写真右、赤マスク)は、就任1年目
四日市工業スタンドオフの宮崎悠馬選手は、1回戦後「石見智翠館戦ではもっと周りを使ったプレーをしたい」と意気込みを語っていた。
その言葉通り、最初の見せ場は周りを上手く使ったプレー。グラウンド中央でボールを持つと、左サイドへキックパスを蹴り込む。「格上の相手に対して、正しいプレーというか。やるべきことだけをしても、勝てないと思っていた。先制するために、一か八かで用意していた。」
残念ながらトライには繋がらなかったものの、やりたかったことはきちんと見る者に伝わった。
自らでチャレンジするプレーも光った宮崎悠馬選手は、日本大学に進学予定(写真中央)
前半15分を過ぎ。四日市工業のキャプテン・岡崎翼選手が、ピッチを後にする。少し早いキャプテン交代の真相について、バイスキャプテンの秦選手はこう話してくれた。「両肩を痛めていて無理を押しての先発出場だった。いつまで持つか、という状態で翼はプレーしてくれていた。感謝しかないです。」
ハーフタイム時には、自身と交代した20番・笠井優志選手に声を掛けに行った岡崎キャプテン。「体を張って頑張ってくれていた。向こうからも『頑張るわ』って返事がありました。」
タッチジャッジには、今大会決勝の笛を吹く加藤真也レフェリーの姿も。今大会で第一線を退く予定
後半に入ると、石見智翠館が更にギアを上げ四日市工業を圧倒。後半だけで7トライ、単純計算でおよそ4分に1本トライを取ってきた。
ノーホイッスルトライも奪う。次から次に負傷者が続出したものの、チーム25人の総力戦で点差を広げ続けた。
個の強さと展開力が光った石見智翠館。ピッチから出る度にウォーターが一礼していた姿が印象的だ
それでも最後まで諦めず戦った四日市工業の選手たち。
2枚同時交代時には、ベンチから「これで流れが変わるぞ絶対、信じろ!」と声が飛んだ。
四日市工業のスクラムハーフ・秦諒磨選手は、左サイドを抜けられそうになると気持ちがこもったタックルを見舞い、相手のテンポを少し遅らせた。「やりきるぞ!」「あと8分、やってきたことをやれよ!」「守り切るぞ!」
どれだけ攻め込まれようとも、ずっと仲間を鼓舞し続けた秦選手。「ディフェンスを最後までやりきる、ということを1年のテーマにしていた。前に出る、という部分は出来たと思う。」
岡崎キャプテンが退いてから、更にゲームキャプテンとしての存在感を増した秦諒磨選手。東海大に進学予定だ
試合終了間際、タイムキーパーを務めていた四日市工業の女子マネージャーは、手を合わせ祈っていた。
記者席の前を通る度に「前失礼します」と言葉を添えた、ベンチ入りしていた選手たち。試合中ですら気が遣える、人間性が磨かれたチームだった。
初出場、東海ブロックのチャレンジ枠として出場した今大会。
また、花園で四日市工業が見たい。
最後のノーサイド
四日市工業高校 秦諒磨バイスキャプテンから、ともに闘った仲間へのメッセージ
未経験者が8割9割のチーム。入部当初は花園が明確な目標ではなかったが、3年間僕たちが「花園」と言い続けてここまでついてきてくれた。感謝しかないです。
四日市工業高校 岡崎翼キャプテンから、石見智翠館へのエール
テンポが速くていいラグビーでした。僕たちを完璧にディフェンスしたそのラグビーで、全国制覇して欲しいです。
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