80分の物語
HISTORY of Panasonic Wild Knights
「全員がハードワークすれば問題ないから」
この一言で、立て直した。そこに、チームとしての強さがある。
声の主は、坂手淳史キャプテン。場所は、ハーフタイム時のロッカーだった。
プレッシャーを受けペナルティを重ねてしまった前半に、立て直して攻撃が繋がる後半。開幕から2戦連続で同じような試合展開を演じたのは、パナソニック ワイルドナイツだった。
前半は、ディフェンスラインのギャップを突かれ簡単にゲインを許す場面が目立つ。ラインアウトモールも押し切られ、トライを許した。
少し、流れがよくないタイミングでグラウンドから響いたのは「自分たちのスタンダードでいこう」という声。相手のペースにあわせず、自分達の基準を大切にすることの重要性を思い出す。
「ジャッジしてジャッジ」リザーブメンバーとして控えていた堀江選手も、一切ベンチに座ることなくピッチサイドから声を出し続けた。
だからこそハーフタイムには「全員がハードワークすれば問題ないから」と、仲間に自信を思い出させる言葉をキャプテンは掛けた。
「この一言だけで全員が(やるべきことを)思い出して動けたことは良かったかな、と思います。」
後半、それが形として表れたのはルーズボールの場面。
「前半はルーズボールが日野側に入ってしまっていたが、後半は自分たちに入るようになった」ことが、ハードワークの一番の現れである。
前節から変わってスターティングメンバーに起用された選手たちの活躍も光った。
先制トライは、当日変更で急遽先発を務めた11番セミシ・トゥポウ選手。
前半18分、大西樹選手が日野・郷選手からノットリリースザボールを奪えば、後半27分、4番・長谷川崚太選手が決めたトライの起点を9番・小山大輝選手が作った。
層の厚さも、このチームの特徴。
ファーストステージ終盤に控える上位チームとの連戦には、チーム全員の力が必要不可欠だ。
今シーズン初の公式戦出場に「緊張しました。セットプレーとボールキャリーの部分で負けないよう取り組んだ」と語った長谷川崚太選手
試合後のオンライン記者会見より
- ロビー・ディーンズ監督
「熊谷の試合充実した施設でパフォーマンスできたことを嬉しく思う。ハーフタイムで修正した課題を後半体現でき、勝ち点を得られたことに満足している。次はショートウィーク。リカバリーをしっかりして、選手の状態を確認しながら大分での試合を準備していく。」 - 坂手淳史キャプテン
「今季ホームで初めてのゲーム。ホームのファンの前プレーするのは楽しかったです。 ジョージ・クルーズ選手は上手くいかない時間帯でのハドル(円陣になって皆で話をする場面)で非常に貢献してくれている。ラインアウトも彼のコールが起点となっていて、スロワーとしても頼もしい。」
His story of Takuya Yamasawa
「見て頂いたとおり。これぞ山沢、というプレー、誰にも真似出来ないプレーをしてくれる選手。」
試合後、名将・ロビー・ディーンズ監督がこう評したのは、ホームグラウンドで10番を背負った山沢拓也選手だった。
この日の試合会場となった、埼玉県熊谷市出身。
熊谷東中学校から隣町の深谷高校に進学後、筑波大学でプレーした。
パナソニック ワイルドナイツには大学在学中から所属し、大学生トップリーガーとして活躍した異色の経歴を持つ。
この日、熊谷ラグビー場名物・四家アナウンサーによる場内アナウンスではこう紹介された。
「日本が誇るラグビー界のファンタジスタ」
一瞬ざわついた客席も、彼のプレーを見れば「ファンタジスタっぷり」に誰しもが納得する。
なぜ、このプレーが起こったのか。なぜ、いま彼はここまで抜けてきたのか。
山沢選手のプレーは、説明することが難しい。
なぜかスルッと抜け、なぜか蹴り上げられたボールを味方につけ、ラグビーの固定概念を覆すプレーの数々を見せる。
前半6分、50m程自身のドリブルだけで進んだ幻のトライ。
後半13分、ステップで相手を交わし短くボールを蹴り上げれば、そのボールを自らでキャッチしグラウンディング。
冒頭のディーンズ監督の言葉を借りれば、まさしく「誰にも真似出来ない」唯一無二のプレーの数々で観客を魅了した。
日本代表キャップ数は3。
2023年を見据えると「知識・経験値がなかなか足りていない」と自身を分析する。
「もっと試合を多く経験して、色んな状況を体験して、自分のレベルアップに繋げていきたい」と語る。
今夏には、地元・熊谷への本拠地移転を控える。
「小さい頃からこのラグビー場でプレーしてきたので、馴染みのあるグラウンド。プラスになることは多い。幸せを噛みしめながら、ラグビーをやっていきたいと思います。」
日本が誇るラグビー界のファンタジスタは、熊谷から世界を目指す。
フォトギャラリーはこちら