80分の物語
HISTORY of CANON Eagles
「面白かったでしょ、うちの試合」
記者会見の最後、そう言うと沢木敬介監督は微笑んだ。
試合後、選手一人ひとりと肩を合わせた沢木監督。パナソニックの選手・監督にもそれぞれ、自ら握手を求めた
僅か2か月前には0-47で屈辱の敗戦を喫した対戦カードとは思えなかった。
前半こそスクラムやブレイクダウンでペナルティを重ねてしまうも、風上に立った後半は深く蹴り込んだキックチェイスで圧力を掛け、逆にパナソニックからペナルティを奪う。
「ここ大事、ディシプリンディシプリン!」後半、流れを掴んだキヤノンの面々に大きな声を掛け続けた、スクラムハーフの荒井康植選手。
今シーズン目覚ましい活躍をみせ、スキルフルなトライを決めた12番・南橋直哉選手。
くるっと回転しながらタックルをかわす2番・庭井祐輔選手に、11番エスピー・マレー選手、13番ジェシー・クリエル選手の存在感も光った。
アタック・ディフェンス両面で、多くの人の記憶に残る活躍を見せた荒井康植選手
個とチームとが両軸で進化し続けた、2021年シーズン。
会場に訪れたキヤノンファンからは、チャンスやピンチの場面で自然発生的に起こった手拍子も、きっと選手たちの背中を押したはずだ。
戦いを終えると、グラウンドを一周、ゆっくりと挨拶して回ったキヤノンの選手たち。
涙に暮れるよりも、「やりきった」。そんな充実感が伝わる表情だった。
田村優キャプテンは言う。
「負けて悔しい。ですが格上の相手にチャレンジする、いままでと違った僕たちを見せられたと思う。チームメイトみんなに感謝しています。勝てませんでしたが、次チャンスがあれば勝てるようにしていきたい。チームメイトを誇りに思いますし、このチームの一員としてプレーできたことが嬉しいです。」
悔しいけど、嬉しい。
その言葉を聞いて、ふと、開幕前のプレスカンファレンスで田村キャプテンが語った言葉を思い出した。
「昨シーズンまではチームの技術レベルに自分が合わせて、自分の持っている駒を出せずにいた。禁止ではなく、合わせて欲しいと言われていて。でも今は、合わせる必要がないというか、持っているものを出していいと言われているので。伸び伸び出来ています。」
沢木監督も「レベルを低い方にあわせる必要はない。下のレベルに降りてこずに、上のレベルに仲間を引き上げる『強いリーダー』」を求めて、田村選手をキャプテンに据えた。
様々な化学反応が、シーズンを通して生まれた。そしてシーズン終盤戦、一貫性のあるチームへと生まれ変わった。
一時は「コンタクトがしたくないなら別の競技をすればいい」とも話した沢木監督。改めてその時のことを問われると「そんなこと言いましたっけ?」と返す。
「一貫性の部分ですよね。一人ひとりが変わって、イーグルスを良くしたいという思いが表現できるようになってきている。」
チームが、一人ひとりが変わったその姿は、会場に詰めかけた4,651人に、そしてテレビの前で応援していた多くの人たちにも伝わったはずだ。
試合後、汗と涙をぬぐった16番・ 高島忍選手
開幕戦の衝撃的な逆転負けから、2ヵ月半。
「成長したと思います。チャンスを作れるようにはなったけど、チャンスをトライに結び付けるには難しかった。トップ4の壁を勉強させてもらいました。ただ、後半諦めずにチャレンジする選手の姿勢は評価できると思います。この悔しさを忘れず、来年必ずトップ4の壁を崩せるよう、チーム一丸となって戦います。(沢木監督)」
狙いは早くも、次なる新リーグへ。
新生キヤノンイーグルスのチャレンジは、第2章へと続く。