アクシデントは突然だった。
後半最初のロングキックを蹴った瞬間に、うずくまった昌平の北川拓来キャプテン。
「足首を捻挫していて、練習に復帰できたのが今週だった。練習不足でした。」
30℃に迫る気温と照り付ける日差しの中、両チームで熱中症に起因する症状を見せた選手たち。
2年ぶりに行われる春の大会は、想像以上に選手たちの体力を奪った。
両チーム一進一退の攻撃は、後半も続く。
熊谷工業は得意のラインアウトモールで前進を試みるも、思ったように進めない。
それもそのはず。昌平は、熊谷工業対策をみっちりと練っていた。
「熊谷工業の強みである、ラインアウトモールと一次アタック。その対策を、ずっとしていました。今日は一次アタックで全然ゲイン取られなかったですし、自分たちのミス以外は本当に良い試合が出来たと思います。(昌平・北川キャプテン)」
後半24分、スコアしたのはまたしても昌平陣。
敵陣でフェーズを重ねた昌平は、13番・笠井侃選手が縦に切り込んでポール真下にトライ。リードを17点に広げた。
熊谷工業の面々から響いたのは、「信用しよう」「もう一回!」「足搔け、前向くよ!」と自らを鼓舞する言葉の数々。
反撃に出たい気持ちは伝わるものの、しかし、ブレイクダウンでのペナルティが重なり思うように陣地を広げられない。
前半6つに後半8つ。合計14もの反則を取られた大半が、ブレイクダウンで吹かれたものだった。
「接点です。接点で負ける部分が多かった。」そう語ったのは、熊谷工業の橋本監督。
その言葉を象徴するシーンが、後半29分にある。
グラウンド中央、インゴールまで30m付近で熊谷工業のペナルティが取られると、昌平は20点差に引き離すべくショットを選択。
「いつもなら決まる場所(昌平・御代田監督)」だが、惜しくもポストに当たって右に逸れると、そのボールを熊谷工業はドロップアウトせずに攻撃を仕掛けた。ボールを受け取った13番・橋本ゲームキャプテンは、タッチライン際を10m程走り抜けるも、その先で寄りの早い昌平ディフェンスに阻まれ孤立してしまう。
ノットリリースザボールのペナルティを取られた熊谷工業。
昌平はクイックタップで一気に逆サイドに展開すると、そのまま「タックルされても倒れない」と監督が評した11番・平塚和選手がインゴールに飛び込み、ゲームを締め括った。
わずか2か月前、0-14で零封負けした相手に、今日は逆に零封勝ち。
「新人戦は15分ハーフだったので、先にスコアした方が圧倒的に有利だった。30分勝負になれば、四つに組んで相撲が出来ます。なので30分では負けない、と選手たちにも自信がありました。(御代田監督)」
その言葉通り、じっくりと戦って勝利を手にした昌平高校。
北川キャプテンは言う。「新人戦のリベンジが出来て、とても嬉しいです。」
3大会ぶり2度目の関東大会埼玉県予選優勝を手に、来月千葉県で行われる関東大会に挑む。
試合後、優勝トロフィーを受け取った北川拓来キャプテンは、ひとり涙を流した。
「新人戦決勝で熊谷工業と戦った時は、自分のコンディションが悪かったので負けました。でもこの関東予選では、決勝戦まで自分が出場せずに勝ち上がることが出来た。
本当にこのチームすごいな、って。有難いな、って思って。ずっと自分なしで練習してきましたし、本当にすごくチームが良くなったな、キャプテンなしでも埼玉県優勝出来るんだな、って思ったら勝手に涙が出ちゃいました。恥ずかしいですけど(笑)」
キャプテンに任命されて早5か月。
「自分が活躍しなければ」と、強い責任感を持っていたのだろう。
3月の新人戦では堅い表情を見せていた北川キャプテンが、今大会ではとても柔らかい空気をまとい、穏やかな表情をするようになっていた。
それはきっと、仲間を信じることが出来るようになったから。
関東大会では、仲間と一緒にチームの成長曲線を加速させるつもりだ。
ピッチを後にしたその瞬間から、大きな声で仲間に指示を出し続けていた北川キャプテン
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