「このゲームの主人公は自分たち。」信じ切れた明治が今季ワセダに初勝利で年越しを決める|第58回全国大学ラグビーフットボール選手権大会 準々決勝|明治 × 早稲田

The Side of 早稲田大学

「取り切るべき所で取り切ったチームが勝った。それだけです。」

大田尾監督は、静かに言葉を紡いだ。

ディフェンスから攻撃に変わる瞬間。対抗戦の早明戦でも威力を発揮したトランジション攻撃は、3週間後に訪れた大学選手権での早明戦でも猛威を振るった。

しかしその根底にあるのは、堅実なDF。

7番・小川瑞樹選手による相手エースを押し返すタックルに、常のダブルタックル。

そして一瞬の隙をついて攻撃に攻勢を移せば、一気に畳み掛ける。

前半8分。

相手のボールが乱れた所で確保すれと、一気に展開し大外に回す。

ボールを手にしたのは、SO伊藤大祐選手。

更に一つ外にはSH宮尾昌典選手の並走がついたまま、インゴールまでおよそ50mを走り切った。

前半37分、プロップの小林賢太バイスキャプテンが走った左サイド。一度は他の人の手に渡るも、最後に地面にボールをつけたのは小林副将だった。

雄叫びを上げ、珍しく感情を大きく表した小林選手。

今日、この場で引退を迎えるわけにはいかない。


「自分たちのスクラムを組めた部分はあったが、そこで時間を使ってしまいアタックに時間を残せなかった。ただただ、悔しい。(小林バイスキャプテン)」

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後半は開始10分で2度のピンチを迎える。

1度目は、モールから離れたボールキャリアの足を7番・小川選手が掴んでピンチを脱した。

しかし2度目はFW攻撃の末、相手プロップにねじ込まれてしまう。

 

そこでキャプテンシーを発揮したのは、リーダー陣。

たとえトライを許そうとも、納得するまでレフリーと話し込んだ小林副将。

キックチャージにただ一人全力で走ったのは、戦列復帰を果たした長田智希キャプテンだった。

チームを引っ張る2人の背中は、やはり大きい。

SO伊藤選手からWTB小泉怜史選手に繋がり、最後SH宮尾昌典選手に繋がればトライ、という場面があった。

だがスピードとパスのタイミングが合わず、絶好の機会を逃す。

相手陣でペナルティを得ると、伊藤選手に代わって入ったSO吉村紘選手のタッチキックがゴールラインを割ってしまったこともあった。

得点のチャンスを、ものにすることができない後半。

「負けたら終わり、という緊張感ももちろんあった。そんな時に、僕や小林が良い声掛けが出来なかったことも(一因に)あると思う。

吉村も思いっきりやってくれた、キックもチャレンジしてくれた結果だった。(長田キャプテン)」

勝つためのチャレンジ。だから、誰が悪いわけではない。キャプテンは、暗にそう伝えた。


「対抗戦からの再戦となったが、あの試合は関係なく、この試合に今までの全てを懸けて戦った。みんなよく闘ってくれた。僕含め、最後にスコアを動かすことが出来なかった。明治の方が、上だった。(長田主将)」

後半39分、5点差を追いかけていたワセダフィフティーン。

勝負の、相手ボールスクラム直前。

長田キャプテンはFWの下に駆け寄ると、全員の胸を叩いて回った。

最後、キャプテンとして仲間に、言葉にせずとも伝わるエールを届ける。

 

だが、無常にも響いたノーサイドの笛。

試合後。

メインスタンドへ挨拶をすると、長田主将は仲間を見て、そして後ろを向き涙を流した。

小林副将は、ずっと静かに頭に手を当てる。

この日も豪快なキャリーを見せた1年生のワンダーボーイ・佐藤健次選手は、ノーサイドの瞬間から泣きじゃくった。胸を貸したのは、4年生たち。15番・河瀬諒介選手に、2番・原朋輝選手。みな優しい表情で、背に頭に手を当てた。

「前半風上だった時に、自分がペナルティゴールやコンバージョンゴールをしっかりと取れていたら勝てた。早稲田の形で勝てる試合だった。

4年生と一緒に出来たラグビーは楽しかったです。来年は上級生として、頑張っていきたい。(SO伊藤選手、2年生)」

長田組の荒ぶるを目指す戦いが、終わった。

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