60分の物語
東海大仰星
試合前、薄田周希キャプテンは穏やかな表情でグラウンドに姿を現した。
「対戦相手は僕たちを成長させてきてくれた東福岡高校。負け続けて、学んで、そこで成長できた。特別な存在です。」
その言葉通り、春の選抜大会・東福岡戦での敗戦から大きな進化を遂げた東海大仰星が、9ヵ月前とは異なるラグビーを見せる。
開始5分で2本のトライを決められた。
「さすが東福岡だな、と。だけど僕らの想定通り。『ここから自分たちのラグビーで、絶対にディフェンスで止めきろう』と皆に話をした」とは薄田キャプテン。
慌てることなく前半のうちに2本取り返したのは、磨いてきた個のフィジカルと組織力があったからこそ。
「今日は1人のビッグタックルよりも、組織として。1人じゃなく15人でディフェンスをしよう、と話をしていました。」
仰星のディフェンスが、徐々に東福岡を追い詰める。
「ラグビーはフォワード、と湯浅先生からも言われている。絶対フォワードで前に出て、バックスを助けてあげなきゃ、という気持ちでした。」
試合中にも笑顔が溢れた仰星フィフティーン。
「本当に楽しかったです。全国の舞台で東福岡さんと戦える喜びもあったし、『しんどいことは楽しいこと』をこの試合のテーマにしていたので。」
そうあっけらかんと話した薄田キャプテン。
根底にあるのは、この1年間積み重ねてきた地道で苦しい練習だった。
「しんどいことを1年間やってきた。走り切る力が僕たちにはあったから、『走り勝とう』と言っていました。」
いくつもの『しんどいこと』が、しっかりと伝わる60分間だった。
「ベスト4で勝てたことは嬉しい。でもまだ、ファイナリストになっただけ。2日間準備期間があるので、絶対に出し切ってチャンピオンになりたいと思います。(薄田キャプテン)」
4年ぶりの頂まで、あと1つ。