もう一回高校生になっても、東福岡でチーム八尋祥吾でのラグビーを選びたい。東海大仰星は4年ぶりの決勝へ「しんどいことは楽しいこと」|第101回全国高等学校ラグビーフットボール大会|準決勝 東海大仰星×東福岡

東福岡

まだ凍てつく寒さが訪れる前の、10月下旬。

東福岡高校を率いる藤田雄一郎監督は、温かい眼差しを選手たちに送りながら教えてくれた。

「今年は3年生が物凄く良い。あと2か月ちょっとしか一緒にラグビー出来ないですけど、出来ることならもう1年一緒にやりたい。

持っているオーラ、一つ一つの接し方、話している内容。特に今年は、愛くるしいメンバーが多いんです。」

 

絶対的な信頼を置いていた、嫌なことを嫌な顔せずやれる3年生たち。

だからこそ東海大仰星との決戦で、藤田監督は思いっきり選手たちの背中を押した。

「全て背負ってやるから。とにかく攻めてこい。」

東福岡高校第65期のスローガンは『覚悟とMUST』。

試合前、スタンドオフの楢本幹志朗選手は覚悟を持ってプレーしよう、と仲間に伝えた。

「部員100名以上の背中を背負って、ひとつのパス、ひとつのキック、ひとつのブレイクダウンに覚悟を持とう。」

2試合連続で、試合開始1分での先制トライを奪われている。だから今日こそは試合の導入、先制点はマストで。


試合前にはノンメンバー席に真っ先に挨拶へ行った。部員数は出場チーム最多の148名

言葉通りの出足だった。

キックオフボールを逆サイドに大きく振れば、大外に控えし15番・石原幹士選手が開始僅か数十秒でのノーホイッスルトライ。

その5分後には、ラインアウトモールから2番・西野帆平選手が持ち出しトライを決めた。

 

ミーティング通りの展開にも司令塔は「仰星さんはこんなに勝たせてくれないよ。0-0の気持ちで戦おう」と声を掛ける。

96回大会での優勝を最後に、4大会連続で準決勝敗退。

花園で決勝の舞台に立つことの難しさを知っている代だからこそ「安心感は全くなかった」とキャプテン・八尋祥吾選手も話す。

幸先の良い出足。

それでも徐々に東海大仰星のプレッシャーを感じるようになる。

1対1、ブレイクダウン、キックチャージ。

前半ラスト5分で、立て続けにトライを許した。

「自分のミスから点を取られた。心のどこかで『自分がどうにかしないと』という気持ちが先走って、プレーに焦りが生まれたのかもしれない。(楢本選手)」

スポンサーリンク

ハーフタイムを終えグラウンドに戻った楢本選手は、ふぅと大きく息を吐きながら空を見つめていた。

「一回心を落ち着かせよう、と思って。

今までやってきた練習、苦しい練習ももちろん多くありました。そんな練習をしてきたからこそ今ここに立てているんだ、ともう一度見つめ直して後半に挑もう、絶対にチームを勝たせてやろう、と上を見上げました。」


藤田監督にとって楢本選手は「信頼出来る、頼りにしている存在。どれだけ今まで幹志朗に助けられたか。よく背負ってくれました、このチームを。」

しかし、東海大仰星の個のディフェンスに圧倒され、思い描いていたアタックが出来なくなっていく。

「スコアで心を折っていこう、としていたが、逆にスコアされてしまった。キックにもストレスが掛かってしまった、フォワードの力不足です。」と八尋キャプテンは振り返る。

「ノンメンバー含め、大阪に入ってからもみんないい準備をしてくれた。僕も一生懸命やった。それでもベスト4の壁、決勝に行くのは簡単なものではない、と強く感じました。(楢本選手)」

東福岡のラグビーが出来ない時間が、後半も続いた。


キックチャージからトライを許した後の八尋キャプテン(左)の表情。藤田監督も「リーダーの中のリーダー」と信頼を置く

試合終了間際、パスが乱れた所を見逃さなかった東海大仰星にダメ押しのトライを許すと、そのコンバージョンキックを待たずして涙をこぼしたヒガシの選手たち。

「自分が監督で良いのかな、って。どこまでこの(ベスト4の)壁を乗り越えられないんだ、このチームですらこの壁を乗り越えさせてあげられなかった。

自分が覚悟とMUSTを提示しただけに、自分も覚悟を持って結果を受け止めていかなきゃな、と思います。(藤田監督)」

スローガンに掲げた、覚悟とMUST。

真の意味を、花園の地で理解する。

「フォワードは頑張ってくれた。それを司令塔として活かしきなかった、僕の力不足でした。それでも試合が終わった後、誰も僕のことを責めなかった。」

そう口にすると、グラウンドでは涙を流さなかった楢本選手は、大粒の涙を零した。
「本当に東福岡で良かった。」
とても濃い、3年間だった。
八尋祥吾を花園で胴上げしてやろう、と挑んだ。
「もう一回高校生をするとしても、東福岡で、チーム八尋祥吾でのラグビーを選びたい。」

八尋キャプテン「不甲斐ない部分もあったかもしれないが、ここまで付いてきてくれて、支えてくれてありがとう。」

最後に、冒頭の意をもう一度監督に問うた。

「選抜大会で優勝してから、背負ってしまったものがあって。だけど見えない所で、3年生たちが一生懸命支えてくれた。

もうあと1年。3年生は迷惑かもしれないですけど、一緒に居たいな、生活したいな、って思います。」


準々決勝で負傷した遠藤亮真選手(写真右)に代わり、スターティングメンバーとして出場した14番・武田幸大選手(写真左)。試合後、遠藤選手が武田選手に手を伸ばし肩を寄せ合った

&rugbyを応援する

スポンサーリンク