東福岡
充分なセーフティーリードを得た、試合最終盤。
どこかザラっとした試合展開が続くと、藤田雄一郎監督は負傷交代した大川虎拓郎キャプテンに代わってゲームキャプテンを担った藤井達哉選手を呼びだし、声を掛けた。
「タツ!トーナメントの終わり方!」
その時グラウンド上に残っていた15人は、そのたった一言で意味を理解すると、直後から攻め立て続けざまにトライを奪った。
後半29分からわずか5分で3トライ。相手ディフェンスを錯乱させながらボールを繋ぎ、大外でトライを取り切った。
11番・上嶋友也選手はハットトリック。
この日奪った8トライ全てが、バックスによるスコアである。
それぞれの役割を理解し遂行する選手たちの具現化能力に、思わず舌を巻く。
14番・馬田琳平選手も1トライ
昨シーズンの東福岡は、アタッキングラグビーの象徴でもある東京サントリーサンゴリアスに近しいイメージを持つ人も多かっただろう。
しかし今年の東福岡は、どちらかというと埼玉パナソニックワイルドナイツのラグビースタイルを彷彿とさせる。
「やっぱりDFだよね、と。先月の埼玉ワイルドナイツ対東京サンゴリアスの試合を見てもそうでしたから。」
どっしりと構え、相手にボールを持たせながら、ターンオーバーした瞬間一気にボールを大外に回す。
タッチライン際でも細かく個々人の高いスキルと連携によってボールを繋げば、あっという間にインゴールへと辿り着く。
1回戦よりも2回戦、2回戦よりも準々決勝。
戦う度に「自分たちの目指すラグビー像」が色濃くなっていく。
おぼろげに見えていたTeam大川虎拓郎のラグビー像が、はっきりと輪郭を見せ始めた。
体を張り続けることが出来る世代。
それは先発だけではなく、今大会に登録されている30名の登録メンバー、そして福岡に残っている残りの部員たちもそう。
誰が試合に出てもしっかりと仕事をする。だから「今で出ているメンバーも(ポジション争いが)怖いと思いますよ」と藤田監督は話す。
その「体を張る」最たる選手が、12番・西柊太郎選手。
174㎝ 73kgとまだ細い体格ながらも、今大会誰よりもタックル局面での印象を残し続けている。
ボールを持てば一転、目覚ましいスピードと空間認識能力でスペースを見つけ出し、あっという間に相手ディフェンダーを置き去りにもする。
この日のファーストトライは、西選手の手で。
ハーフウェー付近で器用に相手を交わし、そのまま50mを独走した。
「相手が順目にたくさん並んでいて、逆目に揃っておらず、ギャップが出来ていた。そのギャップを突いたらコースが見えた」という。
目標とする選手は、東福岡高校の先輩・丸山凜太朗選手。昨季のゲームメーカー・楢本幹志朗先輩は丸山選手からスパイクを譲り受けていたが、「僕はサイズが合わないので」と残念がる。
「体が小さいからこそ、低く相手の弱い場所にタックルすること」が強みだという自身のプレーは、しかしまだ今大会の満足度は80%。
「ターンオーバー出来るタックルが良いタックル。準決勝・決勝では、ターンオーバーを決めるタックルで100%を目指したい。」
ヒガシの12番は、司令塔とともにゲームを作る役目。チームの中心にいることを意識して、グラウンドに立つ。ただ、言葉は苦手だから、プレーでチームを引っ張りたい。「まずは体を大きくすること。そして花園で(東海大大阪)仰星に勝って優勝することが今年の僕の目標」