Most Impressive Player
この日リーグワンデビューを果たした飯沼蓮選手は言った。
「とくに緊張はしなかったです。」
言葉通り、落ち着き払った80分間だった。
昨年度、伝統ある明治大学のキャプテンを1年間務めた。
シャイニングアークス東京ベイ浦安に正式に加入して、まだ9日目。
僅か3か月前の大学選手権決勝からどこか変わったことはあるか、と五感を働かせたが、良い意味で探し出す方が難しかった。
「大学選手権の決勝で敗れてから、次のターゲットをここ(4月9日の試合)に置いていました。心の準備は出来ていたし、イメージもたくさんあったので、スムーズにこの日を迎えることが出来たと思います。」
だから記者会見の冒頭、試合を振り返っての感想を求められても、まるでキャプテンのような視座から言葉を紡いだ。
「前半を良い形で終えましたが、後半最初に3トライ簡単に取られてしまった。そういう所に突き詰め方の足りなさを感じましたし、そこを改善出来ればもっと良いチームになるな、と感じることが出来ました。最後も何度かチャンスがあったのに取り切れなかったのも、勝つチームと負けるチームの違いだと感じることが出来た。すごく良い勉強になりました。」
チームに合流してから、まだ1ヵ月程。
チームのラグビーを理解し、サインを覚え、自身初となる外国人選手とともにラグビーをすることに慣れなくてはいけなかった。
最初は焦ったというが、ある時にふと、考え方を変えてみる。
「逆に頭に入れすぎず、試合当日は自分の自然体で楽しもう。」
だから今日は緊張せずピッチに立てた、という。
「自然と自分の持ち味を出せたし、デビュー戦にしては悪くなかったと思います。」
でもそれより敗戦が悔しいという気持ちでいっぱいだ、と語った。
繰り返すが、社会人になってまだ1週間。「人生でも色々あった1週間でした」と笑う。
「会社の研修も始まり、それと同時に今日の試合で先発と伝えられ。今週は午前中に練習に参加した後、午後は会社で研修を受けたのですが、正直研修している場合ではないと思いながらも(笑)社会人の務めとして、また自身の成長のためにも頑張りました」と妥協を許さない。
大学時代から得意だったという試合前の準備があってこそのパフォーマンス。
「1分たりとも無駄にせずこの日を迎えたことが、今日のパフォーマンスに繋がったと思います」と、色々あった1週間を乗り越えた自身を讃えた。
この日ゲームキャプテンを務めたリアム・ギル選手は、この試合のテーマを「Respect ourselves。絆を信じてやっていこう」と説明した。
まさしくこの日、飯沼選手が見せた80分間もこのテーマ通りだった。
ルーキーとして下手に出すぎず、だからといって気張ることも、今の自分以上に大きく見せようとすることもない。
相手をリスペクトしすぎず、自分たちを信じる。この日チームが掲げたテーマを、そのまま体現した。
リーグワンのチームに加入して僅か数日で、明治大学のキャプテンイヤーと同じ事をし、同じように試合後の記者会見で言葉を発する。
果たしてこれがどれほど難しいことであろう。
「いつものアークスだったら、取られ始めたら(集中が)切れてしまって、どんどん相手に流れを与えてしまう。でも今日は3トライ連続で取られた後、もう一回ハドルを組んで追い返せたところに絆を感じました。」
この日10番を担ったスクラムハーフの大先輩・グレイグ・レイドロー選手からは「レンの好きなようにやっていい」と言われていた。
「ポジティブな方向に持って行ってくれる選手。自分ものびのびと楽しくプレー出来たと思います。」
監督評も「才能ある選手。9番は競争が激しいポジションだが、その競争に勝っていけることを証明出来た試合だったのではないか」と上々だ。
「He‘s got a bright future. ーー彼は明るい未来を掴んだ。(ロブ・ペニー監督)」
まだスタートラインに立ったばかり。
だが、明るい未来に向けて、確かな1歩目を踏み出した。
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